彼氏の部屋の缶の中

どこかにはあるんだろうと思っていた。

元カノとの何かが。

彼と私と元カノは出身高校が同じ。元カノとは話したことがないけれど,高校内のミスコンで優勝していたから知っている。

そんな子と付き合えたら,あいつは絶対に捨てられないはずだ。

あいつに捨てられるわけがない。

だから私はつい探してしまった。

私と彼は4月に付き合った。5月に私の過去が結構バレて,ラインとか写真とか色々消した。けれど消したら消したで脳内に濃く焼きついてしまった。

私のは色々知っているくせに,私は彼の何も知らない。

いつ元カノと付き合って,どうして別れたのか。

気になってしまった。

7月に,昔行ったあるライブのMCを思い出した。「昔の恋人の写真Google フォトに残ってるやつ手上げろ!!おい,もっといるんだろ!!」

私は気になって見てしまった。彼のGoogleフォトのアーカイブの中。

小さい顔に白い肌。華奢で可憐で,何より楽しそう彼女。その横で幸せそうにデレた彼。

まあ消せるわけがないよな。他にも数枚あった。

だから私も自分のGoogleフォトのゴミ箱から救出した。消せるわけがない。無かったことになんかできるわけがないんだ。

それから私は思っていた。

他にも絶対に取ってある。私があげた小さいメモみたいな手紙も,殴り書きしたレシピも,捨てられるわけがないって言うんだ。

だから,絶対に捨てていない。絶対に何かある。

彼のいない日中だった。私は彼の家の衣装ケースの中から,いつものように着替えを出そうとした。ふとそこにある缶が目に入った。

それっぽい四角い缶だった。

たまたま私は久しぶりに嵐の曲を聴いていた。ずっと私を支えてきたこの声と音。

いつもなら迷ったり不安になったりしていただろうか。

私はまっすぐにその缶を手に取り,躊躇いもなく開けていたと思う。

たくさんの封筒。一つとして同じものはない。

止まらなかった。彼女の字は綺麗で,そのイメージのままだった。

私がいつもこんな手紙書けたらなと思っているような,そんな様な,綺麗に愛や感謝やちょっとのわがまま,そして当時浪人中だった彼を支えるようなそんな温かい手紙たちだった。

怒るかな。

でも,あなたが私のことを全部知ろうとした様に,私も自分のことを何も語らないあなたのことに少し興味をもったの。

震えが止まらなかった。緊張している以外にこの震えが来たことはない。

大学入ってから彼女いなかった,と言っていた。

でも浪人が終わる3月にもどうやら手紙は届いているようだ。

受験が終わってこれからに期待を馳せるような手紙だった。

だけど,次に現れたのはやけに薄い,今までとはわけが違う,茶色いキッチンシートみたいな封筒だった。

嫌な予感がした。

大谷のフォークを初めて喰らった,みたいな,そんな。。

今までありがとう
ごめんなさい

え。え。え。なんで。どうして。ねえ,なんでよ,なんで。。

そう私が言ってしまいそうになる。ねえどうしてよ。ねえ何したの。ねえ,なんでよ。いっぱい電話したじゃん。あんまり会えなかったけど会えた時すごく楽しかったじゃん。ずっとずっと幸せだったじゃん。いっつも支えてくれて,見守ってくれて,たくさんの愛をくれて,ねえ,なんでよ。何したのよ。これから僕も大学生になって,もっと自由になって,これからは,これからも,この先もいっぱい一緒に,,,

わけがわからなかった。まあでもどんなドラマも映画もこんな感じよね終わりって。ってそう思った。きっと嵐を聴いていたから,私も落ち着いていたんだろう。

ごめんなさいって,振ったことに?それとも別れる原因となる何かが起きたの?でもあんなに。。

まあでも好きと表面上言っても,大好きで溢れる瞬間があっても,全体で捉えるとそうじゃない時もあるしね,とか色々思うけど,

ああ,ほら早くしないとせっかく入れたお風呂が冷めちゃうよ,早く着替えを取って,,ああ,こんなので一人でお風呂に入れるかよ。。ねえ。。

きっと彼はこの手紙たちを捨てられないと思う。たとえ読むことはなくても。いや,結婚前夜とかに読んでそう。とか言って。

まあでも私も誰かに手紙を送ったことがあるから,そんな過去が一応あるから,お互い様なのかなとか。だからなんとも思わないけど,

でもやっぱり,なんで元カノと別れたの?とは今後も聞けないな,と思った。

もし私が将来元カノちゃんとどこかで再会して仲良くなったら聞いてみようかな。

いつかきっと別れる。でも,今日はちゃんとお風呂に入って,できるだけ綺麗に彼を待っていよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?