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「ソーシャルイノベーション概念」レポート〜TSUNAGU FASHION LABORATORY #1〜

今回は、6月に開催された「TSUNAGU FASHION LABORATORY」の講座「ソーシャルイノベーション概念」についてレポートしました。近年注目されている、社会課題解決に向けたソーシャルイノベーション。個人の哲学がどのようにイノベーションと繋がっているのかを紐解きます。

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講師の長野県立大学教授の大室先生

自己の認識からの逸脱

普段、成功体験といった「経験」をベースに行動している私たち。さらに、過去・現在・未来という「時間」や「概念」、そして「思考」などは、無意識に私たち個人の認知バイアスを生み出します。

こうした認知バイアスによって、私たちは自ずと既存の枠に囚われていき、その枠の中でしか物事を考え、実践しなくなってしまいます。すなわち、新しいものを生み出す「イノベーション」を起こすことが難しくなるのです。

こうした4つの認識から脱するというのは、様々な関係からの逸脱も意味します。そうした逸脱が新たな関係性を生み出し、結果としてイノベーションに繋がると大室先生は考えています。

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実際に、企業と社会の関係自体が曖昧で境目がない状態になってきていると話す大室先生。自分独自のスタイル(個の確立)と多様性を意識するZ世代の台頭にヒントがあり、Z世代をCFO(Chief Future Office)とする企業が出現しているそう。

企業のみならず市民やユーザー、様々なバックグラウンドを持つ人たちが境目なく混ざり合うことで生まれるイノベーションは「オープンイノベーション2.0(以下、OI2.0)」と呼ばれており、近年注目されています。

主体性が鍵となる、オープンイノベーション2.0

具体的に、OI2.0とは、社会課題解決を基軸に、主導権が企業から市民、ユーザーへ移っている状態のこと。大室先生は、そうしたイノベーションの動向を捉える中で、人々が様々な状況に無意識に巻き込まれていく日本社会の特性上、「自分(主体)」というものが存在しない限りイノベーションは生まれないのではないか、と懸念されています。

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出典:NEDO「オープンイノベーション白書」

そもそも、「イノベーション」には、利潤を最大化するビジネスイノベーションや、社会課題の解決を目指すソーシャルイノベーション、そして近年注目されている持続可能な社会の構築に向けたサステナブルイノベーションなど、様々なタイプが存在します。

同時に、このようにイノベーションの領域自体が複雑化していくと「人間中心主義」が色濃くなり、多様性や曖昧なもの、自然環境などを上手く扱えなくなるといいます。なぜなら、その根源に、科学的な二元論(主体・客体、観察されるもの・観察するもの、企業と社会など)が存在するからだと大室先生は話します。

すべての事象が何かと何かの関係の中に陥っているということは、その「何か(客体)」を対象として置かない限り、他のものは存在し得ない。これは、パートナーという存在がないと、個の人間として立ち上がってこないということであり、劇的な変化が描けなくなることも意味します。すなわち、様々な人々が集い生み出すOI2.0には、個人の主体性が鍵となるのです。

知識の監獄から抜け出す、内臓感覚

私たちは、無意識に知識の監獄に陥っているのではないか。そう問いかける大室先生は、未知の情報を即座に既知に変換する行動は私たちの思考の「余白」を無くしてしまうといいます。

純粋な思考自体は未知の「曖昧なもの」が基盤にありますが、様々な経験により認知バイアスが重なり、自ずと社会に自分を適応していくループの中に入っていきます。イノベーションを起こすには、そうしたループの中にいるのではなく、頭(認知バイアス)の働きを抑え、自身の身体や直感などの内臓感覚を働かせて周りの事象を捉えていくことが重要だと大室先生は話していました。

自己の哲学から生まれるイノベーション

私たちは普段、様々な物事を分けていく「分別」の思考を活発に働かせていますが、あえて分別せずに物事をありのままに捉え、今までにない新たな分別を生み出していくことが大切です。分けること自体は悪いことではないですが、分け方を変えることが結果的にイノベーションに繋がるといいます。

そのために、今日一日の中で嬉しかったことを書いたりデッサンをしたりなど、自身の「気付きのレベル」を上げ、そうした活動を通して自分自身の内面に焦点を当てていくことが大切になってきます。

そうした気付きのレベルを上げていく中で、鍵となるのが自己の哲学(軸)です。自分にとって未知の物事と出会うと自ずと不安な気持ちになり、不安になると脳や内臓機能もエネルギーとして使われていきます。イノベーションを起こすにはそうした身体的なストレスがかかりますが、自分の哲学を持つことで自ずと自分を安定させていけると大室先生は話します。何か迷った時に、無理に自分の中の知識に固執して分かるようにするのではなく、自分の哲学に寄せていく。外的な環境に適応するよりも、自分の哲学を持ってそちらに合わせる方が負担が少ないといいます。

哲学とは未知の物事に対して概念を生み出し、それを説明しようとするものですが、その多岐にわたる「概念」に代わるものがビジネスという形になり得ると大室先生は話します。すなわち、曖昧な感覚を受け止めながらビジネスモデルを構築していくことで、自ずと「分かる」という感覚に変えていくことができるといいます。

社会課題解決を目指すうえで、どう考えても分からないことが出てくるかもしれません。そうした状況の中で、無理してすぐに理解しようとせず、自然とひらめくタイミングを待つ。そして、感覚(内臓)と理論(頭)をバランス良く出し入れしていく。このように自分の哲学を磨いていくことこそ、今まで見たことのない世界を生み出せるイノベーションに繋がっていくのではないでしょうか。


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