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ファッションからリジェネラティブビジネスをデザインする。「リジェネラティブファッションデザイン」小森優美講座レポート

昨年「個人の心の在り方からファッションの世界を再生する」をテーマに「TSUNAGU FASHION LABORATORY」が半年間開催されました。今回は、TSUNAGU代表でラボを主宰する小森優美(以下「小森さん」)が講師を務めた講座をレポート!これまでファストファッションブランドで働いていた経験から草木染めランジェリーブランドの立ち上げ、そして小森さん自身が目指すリジェネラティブな世界観についてお話を伺いました。


小森優美

小森優美
草木染めランジェリーブランド"Liv:ra(リブラ)”のデザイナーとして
自身の自己表現を探求すると同時に、社会変革を目指す実践的なラボを運営中。 幸せな感覚から生まれる直感的なインスピレーションに従って、 プロダクトからビジネスモデル、教育プログラムまで エシカルファッションを軸にあらゆるデザインを手掛けている。

アパレル業界の社会問題から、「エシカル」の世界へ

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(小森さんのスライド資料より)

小森さんはファッションの専門学校を卒業後、大手ファストファッションブランドでデザイナーとして働いていました。小森さんが勤めていた会社は、Tシャツ1つのデザインにつき約2万枚生産することもあり、当時のプロパー売上達成率(定価での売上達成率)は70%。セール後売れ残ったものは廃棄されていたそうです。

小森さん自身もそうした廃棄問題に対して違和感を感じる中、2011年3月に東日本大震災が起こりました。小森さんは原発事故や風評被害など様々な社会問題を肌で感じながら、「自分が使っているものは、誰がどうやって作っているのか?」という疑問が生じたそうです。そして、自分が真に「本物」だと思うものをつくりたい気持ちが芽生えたといいます。

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3.11後自己探求の旅に出た小森さん(小森さんのスライド資料より)

そして、東日本大震災から2年後の2013年4月24日には、バングラディシュで縫製工場が入居していたビル「ラナ・プラザ」が崩壊し、1,000名以上が亡くなる悲惨な事故が起こりました。

また、ファストファッション産業の背景に迫った『ザ・トゥルー・コスト』というドキュメンタリー映画が世界各地で放映されるなど、ファッション業界における社会問題が発信されていきました。

そして、徐々に「エシカルファッション」が注目を集めていきます。「エシカル」とは、「倫理的な」という意味があり、「エシカルファッション」は人や地球にやさしいファッションを意味します。フェアトレードやオーガニック素材、アップサイクルなど様々な取り組みが行われています。

小森さんも、エシカルファッションという存在を知ったことで、人や自然環境に優しいものづくりの形を探究し、より自分自身でエシカルファッションブランドを運営していきたい気持ちが大きくなったといいます。

草木染めランジェリー『Liv:ra』の誕生へ

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(小森さんのスライド資料より)

ファッション業界が抱える社会問題の中で、特に染色などの過程で生まれる汚水問題に関心を持った小森さんは、「草木染め」という伝統技術に注目しました。そして、京都の職人さんとの出会いから、人や自然環境に優しい染色方法「新万葉染め」を用いたランジェリーブランド「Liv:ra(リブラ)」が生まれました。

マリーゴールドからは黄色、インド藍からは青色、アカネからはピンク色に染められるなど、草木から鮮やかな色彩が生み出されます。実際に、保温性や消臭性といった効能があったり、漢方としても使われていたりする草花もあるといいます。また、Liv:raではシルクやオーガニックコットンを使用することで着心地の良さも大切にし、「花の命を着る」をコンセプトにものづくりをしています。

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(小森さんのスライド資料より)

真に「持続可能な」システムとは何か

Liv:raでエシカルファッションのあり方を探究する中で、小森さんはアパレル業界のシステム変革に対して関心を持つようになっていきました。

従来のアパレル業界におけるサプライチェーンは、商社や問屋、百貨店などを仲介に、材料の調達から製造、販売が行われています。また、SPAと呼ばれる製造小売業界は、ブランド企業が直接商品企画や店舗運営を行う仕組みです。

このように、繊維や生地を扱う「川上」から、製造段階の「川中」、販売を担う「川下」に至るまで、アパレル業界では多くの人が関わっています。流通の流れが複雑だからこそ、システム内部が不透明になりやすいと同時に、システムの中でエシカルを追求しようとするほど誰かに負担がかかる状態になりやすいと小森さんは話します。例えば、工場へのコストカット、起業家自身への負担、スタッフの激務など、 問題は無くならずに移り行き、ものが売れれば売れるほど消耗することもあるといいます。

こうした持続可能ではないシステムに対して、私たちは何ができるのか。小森さんは、行動を起こす自分自身に焦点を当て、「幸せ」に妥協せず、大切なことを大切にしていくマインドが重要だと話します。

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(小森さんのスライド資料より)

そうしたマインドを大切に、小森さんはLiv:raのビジネスモデルをブラッシュアップしています。Liv:raでは、毎月受注生産をすることで在庫過多による廃棄が出ないようにしたり、受注の場合はお客さんに商品を待っていただく代わりに通常価格の30%オフにして付加価値を提供したりするなど、様々な工夫をしています。

伝統とイノベーションをつなぐ

Liv:raでの実践を通して、小森さんはデザインやシステム、働き方が自由になるのと同時に、 なによりも自分の心が自由になっていくと感じているそうです。

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(小森さんのスライド資料より)

小森さんは活動の拠点を京都に移し、シルクの素材からものづくりをしていく予定です。シルクの糸を生み出すカイコは桑の葉を食べますが、桑はよく育ち、二酸化炭素をたくさん吸収するなど、環境にポジティブなインパクトがあると言われているそう。そこで、小森さんは「協生農法(地球の生態系が元々持っている自己組織化能力を多面的・総合的に活用しながら有用植物を生産する農法)」に注目し、今後はこの農法を利用して桑の木や染料の森を作り、地域の環境改善と伝統工芸のイノベーションを目指していきたいと話します。これは、まさに「リジェネラティブデザイン」につながる実践です。

リジェネラティブな世界を作っていくために

この「リジェネラティブ(Regenerative)」とは、直訳すると「再生」という意味です。近年では農業の領域で自然環境を再生する農法として注目されていますが、小森さんはこの考え方を私たちの心や社会全体に広げて考えています。

個人の心の「リジェネラティブ」な在り方は、自然だけでなく人や社会、自分をとりまくすべての関係性を癒し再生していく。そう考えた小森さんは、持続可能な社会に向けて、心の在り方から生まれるリジェネラティブデザインを探求し、この「TSUNAGU FASHION LABORATORY」企画しました。

これまでファッションの世界で、「真のものづくりとは何か」を追求してきた小森さん。近年環境問題をはじめ様々な社会問題が発信される中で、これまでのような「支配」や「依存」がはらむピラミッド構造のシステムから脱却し、多様でカラフルな世界観を構築していくことが大切だと小森さんは話します。

そして、この変化には、行動を起こす一人ひとりの「内面」が重要になります。個々人が本当にワクワクすることや「幸せ」だと思うことを追求していくことで、結果的にシステムチェンジが<自然に>起こっていくのだといいます。

「幸せ」は、 外側の現象ではなく常に内側に存在している。だからこそ、自分の内側から溢れ続ける豊かさの源泉と共にいることがとても大切だと、小森さんは話しました。

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今回の講座では、TSUNAGU代表であり草木染めランジェリーブランド「Liv:ra」を運営する小森さんにお話を伺いました。先述のように、これまでのトップダウンの構造はアパレル業界だけでなく、私たちが生きる社会システム全体にも言えることですが、そうした大きなシステムに対して個人として何ができるか、筆者自身もこれまでモヤモヤを感じてきました。しかし、個々人が自分自身の「幸せ」を基盤に、多様でカラフルな世界を作っていくことで、結果としてシステムチェンジが自然に起こるという話が印象でした。筆者も、まずは「表現者」として自分が思い描く世界を少しずつ形作っていきたいと思います!



Written by Mari Kozawa




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