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伝統文化から、新たな女性像の創出へ。「MUSKAAN」

古くから日本で親しまれてきた銘仙や紬、縮緬といった織りの技術。奥深い歴史や色彩、触感の美しさが相まって、時代を超え今もなお魅力を放っています。今回は、ヴィンテージの銘仙や紬、縮緬などの絹の染織品をアップサイクルし新しい価値を生み出すアパレルブランド「MUSKAAN」代表の石坂美由紀さんに、クリエイションへの想いや美学を伺いました。

アップサイクルという、「価値の高次元化」

グローバリゼーションが加速する中で、様々な情報が飛び交い、新しいものが次々に生まれている現代。そうした時代の中でも、伝統的な手法で生み出される手仕事には、時間を超えるタイムレスな魅力があります。

絹織物をアップサイクルしワンピースやスカート、ジャケットに仕立てている「MUSKAAN」は、2019年にスタートしたブランド。箪笥に眠るヴィンテージ着物をアップサイクリングし、新たな価値を生み出すことをコンセプトにしています。

伝統的なテキスタイルが持つ豊かな柄や素材を通して、忘れかけられている日本の生活や文化の根底にある美意識を見つめ直し、現代のライフスタイルに落とし込んだデザインに。すべてが正絹着物を素材とした一点物で、熟練した縫製士により丁寧に仕立てられています。

石坂さんはブランド創立当初から「アップサイクル」という手法で絹織物を通して日本の手仕事に向き合ってきました。

石坂さん:手仕事には、そこで生活を営む人々の地域の循環を感じられます。グローバリゼーションが進み、文化や考え方などあらゆる物事が均質化していると感じる中で、地域における循環を起こして行くことが大切だなと思います。

石坂さんが「アップサイクル」を知ったのは、イギリスのファッションスクール「セントラル・セント・マーチンズ」での講義で、友人から金継ぎが持つ日本独自のアップサイクルの感覚を言及されたことがきっかけだったそう。

石坂さん:「金継ぎ」はお金と時間がかかることだから、新しい物を買った方が安く、手に届くのも早いです。だけど、金継ぎには経済的価値以上の「心の贅沢」のような力があると思います。

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石坂さん:アップサイクルはゼロウェイストの文脈で語られることが多いですが、「リメイクの発展版」ではないと私は感じていて。「勿体ない」以上の価値がある。そう思うからこそ、私は伝統的なテキスタイルを、現代に溶け込むファッションの形に落とし込んでデザインをしています。
MUSKAANの中で主に使用している銘仙も、もともとは若い女性の普段着として着られていて、昔のファストファッションのような感覚があったのではないかな。あくまでも銘仙は普段着だったので、着物の状態だと冠婚葬祭など格式のある場所では着るのが難しいですが、こうしてドレスに変えることで、どんなシーンにでも着ることができます。そうした意味でも、「アップサイクル」とは捨てられてしまう物を生かす以上に、「価値の高次元化」だと思います。

「エンパワメント」としてのファッション

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人種や性別、年齢を超えて着る人を「エンパワメント」するファッションの力は、デザイナーである石坂さん自身にも強い影響を与えているといいます。

石坂さん:近年、世界各地でアジア系女性のエンパワメントが盛り上がりを見せていますが、「MUSKAAN」というブランドを通して、そうしたアジアの女性たちをエンパワーできるようなクリエイションをしていきたいと思います。
"Well-behaved women seldom make historiy.(”わきまえる女性たち”はめったに歴史をつくらない。筆者意訳)"という言葉がありますが、新しい世界を構築するには世の中が求めている女性である必要は無いと思います。人から求められる自分で居たいと思うこともあるけど、何より自分自身を受け入れることが大切。自分が求めている「私らしさ」を肯定していけるように、MUSKAANを通して新しい日本の女性像を提案していきたいと思います。

そういった女性のエンパワメントの文脈を意識しながら、今後石坂さんは自分だからこそできるクリエイションの形を模索したいと語っていました。

石坂さん:今は着物のアップサイクルをベースにしていますが、今後はもっとデザイナーである「私らしさ」を出していきたいです。多色使いや組み合わせが自身のクリエイションの強みだと思うので、そうした表現や魅せ方を探りたいですね。

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石坂さん:私が表現したいのは、「MUSKAAN」という架空の女性像です。自信に満ち溢れ、型破りでエレガント。そういったイメージが、タイムレス、エイジレス、ジェンダーレスなものに繋がると思っています。今シーズンのコレクションテーマは「In My Area」。物理的な「領域」ではなく、自分自身の得意分野で自由に遊ぶ感覚を意味しています。今後も、そういった感覚をMUSKAANの中で表現していきたいと思います。

最後に、石坂さんにとっての「エシカル」を伺いました。

石坂さん:「エシカル」は自己内省に繋がっていると思います。この世界自体がカオスだから、明確な定義や正解の無い「エシカル」という言葉はフィットしているなと思います。社会問題は実は自分の中にある。だからこそ、そういった問題に対して自分がどう向き合うかが大切だと思います。


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近年「自分らしさ」を大切にしようというメッセージが飛び交う中で、あらためて自分の内側にある「アイデンティティ」と向き合うことの大切さを筆者自身も感じています。そういった自分のアイデンティティを感じる一つの手段として、伝統文化や手仕事が大きなヒントとなるのではないでしょうか。衣食住、まずは自分が気になるところから、その土地が生み出した伝統の魅力を感じてみてください😊


Written by Mari Kozawa

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