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重層事業を語り尽くす〜「地域でともに暮らす」を紐解くvol.2 イベントレポート(暫定版)

主催した”支援者つながるカフェ”は、地域志向の支援者がつながり、エンパワメントするコミュニティです。詳細や成り立ちは下記noteをご覧ください。

地域共生的な思考 -vol.1のキーワードとは-

その人それぞれの持つ可能性をキャッチして、周りを巻き込みながら、できるひとに委ねていくことを“ぼちぼち”やっていく。 

そんなコーディネートがみんなを楽しくワクワクさせて、「共に生きる力」を生み出すことが、犬丸さん、松村さんから熱くかたられました。
vol.1「地域共生を熱く語る男たち」イベントレポートは下記よりご覧ください。

vol.2は「重層事業を語り尽くす」をテーマに

2024年8月31日に開催されたvol.2のスピーカーには、前回に引き続き厚生労働省社会援護局地域福祉課地域共生推進官の犬丸智則さん、株式会社まちづクリエイティブ代表理事・NPO法人KOMPOSIION代表理事の寺井元一さん、そして元松戸市地域共生課長の宮間恵美子さんです。
国(厚労省)と松戸市、そしてまちづくりの事例から想いを重ね合わせ、参加者それぞれ「地域で共に暮らすには?」を考え、語っていきました。

進行は支援者つながるカフェ共同代表松村が務めました

重層事業はひとつの手段に過ぎない。

”重層事業は何のためにやるのか?”
前回vol.1に続き、今回も犬丸さんより、地域共生社会を目指す一つの手段である【重層的支援体制整備事業】について、その核となる考え方・捉え方についてお話いただきました。

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背景にあるのは、人口減少やエンパワメント機能を持てない個人が増えていること。
「あなたも私も終身雇用のような一本道の人生を歩めるわけではなくなった」
多様な生き方、暮らし方をる人たちとあなたはどうやって一緒に歩む?その中でどうまちをつくっていくのか?
 
”支えられていた人が支える側に回る必要性”地域社会の持続的発展の実現に重要な考え方。
”地方創生と共生支援の取り組みが行えるのは行政”
福祉の推進が必要。地域住民ひとりひとりの目線でひとりひとりが地域に関わる入口を広げ、活動の多様性を認めることで実現できることの間口を広げることがイノベーションにつながるのではないか。

雨に濡れている人に、傘を貸してしまってないか?

支援者でありがちなのが、雨に濡れている人に「傘を貸す」こと。
隣で人が濡れていたら、黙って傘を貸すのではなく、
まずは「何をしてほしいのか」を聞くこと。
ついついゴールをつくりがちだが「どういったことが必要なのか」に目を向けることが大切。

では、雨に濡れている人自身はどうなのか?
相談窓口をやってます!と掲げても、たとえ困っていたとしてもなかなか行かない。
ではどうやって出会っていくのか?
出会いの場として、立ち飲み屋、カフェ、図書館・・・そういった場ができることを応援していく。今ある資源を多様に活用したり循環することも大切。

重層事業は「漢方薬」

小さい実践をしながら今までできなかったことをやる・動きやすい体制をつくること=重層事業と捉えてほしい。
新しい「窓口」をつくるものではない。
守山市では、
①重層会議での決定事項は市長でも覆せないことをオーソライズ
②会議の場では看板を背負うべからず
③現場相談員の相談を受ける機能を課に昇格
④受託事業者とのおしゃべり会
 などルールや組織から人と人との話し合いを重ねて変革をしていった。
協働の仕組みは走りださないと作れない、一緒に価値創造していく
つまり、重層事業は時間がかかる「漢方薬」のようなものだと考える方が自然。

©︎厚労省犬丸

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松戸で重層事業をどのようにすすめてきたか?

続いて。
千葉県松戸市では、重層事業を用いて、何を目指し、どのように進めてきたのか?
元松戸市役所で地域共生課新設の立役者でもある宮間さんに語っていただきました。
 
★包括的相談支援体制
「福祉まるごと相談窓口(福まる)」の設置(2017年度)
ワンストップ相談窓口を一つ作りたかったのではない。地域包括支援センター、障害相談事業所、親子DE広場などあらゆる相談窓口があったが、みんな福祉まるごとになってもらいたい、どこの相談に行っても話を丸ごと聞いてもらえる全市的な体制、相談支援に従事する人のそうしたマインドを育みたかった。
現在は当初の体制や想いではないが、相談機関での連携は現場レベルで協力しながら対応している印象はある。 

★地域づくり支援
「地域づくりフォーラム」の開催(2018年度)
松戸市では日常生活圏域を15地区とし、町会・自治会(地区会)、地区社協、地域包括支援センターで統一された区分けをしている。
地域住民と共に自分たちの地域を考え形にする企画を、初めはモデル地区を設けてという提案があったが、それでは意味がないと思い、15地区一斉に開始した。
その時にこだわったのが、市民活動やNPOが活発な松戸の特徴を生かして、まつどNPO協議会と手を組んだこと。彼らにファシリテーターになってもらい、町会等地縁組織、市民活動団体や個人、介護・福祉事業所等による各地区実行委員会を立ち上げた。

地域づくりフォーラム(2018)事例「小金ミステリーツアー」

例えば、「小金ミステリーツアー」
みんなでやってよかったね。だけでなく、その振り返りの中から、
・福祉を進めるにはエンタメと組むと良いのでは?
・地縁組織や市民活動団体それぞれの活動を進めてきたが、手を取り合って実行委員会形式もよかった。
・町会や地区社協は縦軸の活動だが、テーマ型で活動している人たちに横串を刺してもらうことでこぼれ落ちる人を減らせるのではないか
という学びがあった。

★一番やりたかったのは「参加支援」

仮に一人学校に行きずらい子がいた時に、その子の居場所作るだけでなく、例えば障害の地域活動センターで一緒に作業したりり、親子DE広場でお手伝いする方が居心地がよかった場合に、それを受け入れられる事業だと認識した。
重度知的障害のある少年とのお話し。この少年は個別指導がなかなか合わなかったという背景があった。
彼を観察をしていると園庭にある排水溝目掛けて小石を入れることに熱中していた。興味が湧き、一緒にやってみるとその面白さに気づいた。
個別指導の中で、穴に球を入れる課題を設けたところ、それがハマり、とても集中して椅子に座り続けることができた。その後条件を変えてもうまく取り組むことができた。
この少年との関わりの中で、ひとりひとりにフィットすると持っている力が発揮されるという原体験が、この事業の可能性に気づくきっかけとなった。
そのほか、地域包括支援センターが企画した、ケーキ屋さんがお店を提供し、そこでのサービスを認知症当事者が担う”プラチナカフェ”を開催。
そこでも間違ってもいい、優しい時間・空間が感じられた。

まさに、プラチナカフェのような”間違いや失敗を許容してくれる場所”
”個々にあっている地域、場所、産業をつないでいく場所”
これらを参加支援としてできるよう、”まつどDEつながるステーション”の開設を目指した。
これらを実現する場を創出するのは、人が介在しないといけないと考え、つ
ながる支援員の配置も進めようとした。

※上記の”まつどDEつながるステーションは、当時の素案であり、現在の取り組みにつきましては、下記HPをご参照ください。

◆あらためて地域共生社会とは。
許容力のある、まちに優しい人づくり
地域の資源を循環させてひとりひとりのニーズに応えていけるようにする

 これらがキーワードだと感じ、分野を超えていくことが大切だと思っている(このイベントもその一環!)

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ビジネス(まちづくり)と福祉は延長線上にあるもの

最後に登壇したのは、株式会社まちづクリエイティブ代表取締役、そしてNPO法人KOMPOSITION代表理事でもある寺井さん。
松戸での事業の変遷から、福祉の可能性について語っていただきました。

冒頭には、今回のイベント会場「FANCLUB」にも触れていただきました。

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◆ビジネスと福祉
・株式会社まちづクリエイティブ・NPO法人KOMPOSITIONの活動を通じて
ビジネスと福祉は世間一般で一番遠いと思われているが、自分はそうは思っていない、実はすぐそばと思っている(どちらかというと行政が一番遠いかもしれない・・・)
 
★MAD City(架空のまち)
昔の日本には、半径500mからでたことのないおばあちゃんとかが結構いたという。日本で一番小さいまちづくりをしようと、松戸の事務所を中心として半径500mを架空の自治区のつもりでロゴを作成。
「まちを盛り上げるために何かやる人に不動産を貸す」
不動産を貸すだけでなく、無理なく何か一緒に仕事をするという契約を多く交わしている。例えば、カメラマンであれば普段から撮っている松戸の風景データを購入するといった具合。

©︎teraimotokazu

私の興味関心でいうと、デンマークの首都コペンハーゲンのクリスチャニアという自治区がある。四輪車の使用禁止など独自の法律等を備えている。
近年ではサーキュラーエコノミーの潮流があり、環境再生型の都市開発に影響を与えて発展し、今後の日本国内のまちづくりにも大きく影響を与えると思う。
世の中のルールが変わると文化が変わる、文化が変わると価値観が変わる
→規制緩和をすることで人々がいろいろなことをやるようになった。

コミュニティデザインは素晴らしいし自分もそれを目指していたが、ある時「コミュニティは恐ろしいものでもある」と気づいた。
コミュニティデザインだけでなく、新たな人と人の関わり方としてのアソシエーションデザインが重要だと考えている。

©︎teraimotokazu

まちづくりは個人と大きな企業が交わる領域だったりする。
自分自身はコーディネーターとしての立場で、共同事業をやる人たちと大きな企業を繋げることができる可能性を感じている。

まちづくりの手法として、一緒に何かやる人たちが、アーティスト層・クリエイター層から、ママさん・性的マイノリティ・外国人と重点が変化してきている。
”仕事を人に合わせるのではなく、人に仕事を合わせる”
福祉の業界でくくられている人は実はもっと豊かに生きられるのではないか?
 例えば、リペア業界。リペアで求められる技量は、自閉症など集中力のある彼らが担うことで能力を発揮できるだけでなく、ビジネスとしての可能性も感じる。つまり、福祉の業界で括られている人は実はもっと豊かに生きられるのではないか?

自分のために何かするという観点から、アーティストや起業家を集めて、それにともなって人が集まっていった。アーティストや起業家向けの与信をおこなうようになったことで、結果的に福祉につながった感覚。 

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<ご紹介>
今回コラボ企画として、ケーキやドリンク、そして素敵なBGMを準備していただいた”音楽喫茶ふぃおり”さんです。

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言語の共通認識を

ブレイクタイムを挟んで、参加者とのトークへ。
その一部をご紹介。

Q:コミュニティの恐ろしさとは?コミュニティは何を指しているのか?

(寺井さん)
コミュニティはブレーキ、アソシエーションがアクセル。
ブレーキがない車は恐ろしくて乗れないはず。両面必要。
コミュニティは何かをやることに特別な力をもっている。
内心やりたくないことをやらせる力を持っている(お祭り、防災など)。
村八分という言葉があるように、同調圧力が力の源泉である。
そして、新しいことを始める力が弱い。
コミュニティとは何かといえば、「町内会」をはじめ「先輩」「後輩」など、地縁の繋がりが背景にある。
まちを良くしていくには、そうではない場をつくっていく必要もある。
出入り自由、新しいこともたくさん言っていく場のような。

まずはコミュニティの理解がそれぞれに違うので、用語の認識をそろえる必要がある
「コミュニティデザイン」という風に言った時の「コミュニティ」にどんなイメージを抱いているのか。しっかり共通言語にしていくべき。

(犬丸さん)
職員たちを解放する、やりたいことをやれるようにする。
「○○課だから」「じぶんがこうだから」というようなものを踏まえた上でその人の幸せを守っていく。
できないところに手を届かせようとする、アイデアを官民で出していく。人によって見え方が違う。
重層会議で大切なのは『言語の統一化』
日本がどういう地域を目指していくのかという過渡期にあるように思う。
制約があるからこそみんなが知恵をださなければいけない、だからこそ重層に向かえる。
上から言われたからやるというのではなく、みんながいろんなところで動いていけたら。

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Q:現場でずっとやっていると、末端の支援者が目の前のことに追われている実感がある。今日のような発想でできたら楽しいと思うが、なかなかそこに至らない。一歩踏み出すのは?
 

(犬丸さん)
船橋市でやったのはフィールドワーク。忙しくてこういう話を聞く場はないので、実践しながら考えていこうというかたちにした。同じものを見ながら、こういうのを持っとこうしたらいいよねと言う学びあいをした。こういう人に声かけたいけど3人いたら声掛けられる、などがある。誰かが価値ないというものが、誰かからは価値がある。目線の交換をしながらまちをつくっていく。現場の人は育ってきた経験が違う。それでいい。誰かと誰かは経験が違う、2人いればその人を応援できるツールが2倍になる。
 

(寺井さん)
以前西成に遊びに行った。B型がクラフトビール作っている。→スタンドバーをバンバン出している。→こんなにいい感じに福祉ができている事例は珍しい。ビジネスとして始める際に楽だが、給料を上げるのが難しい。福祉とビジネスの相性は良いところもバッティングするところもある。
福祉の人が楽しそうにやっているのが大事。
 

(犬丸さん)
労働者協同組合法。ひとり1万円出資して3人集まれば会社が創れる。失敗しても1万円。ちっちゃい経済をいっぱい重ねていくと、おっきい経済になる。こういったツールもある。
法人になる(届け出だけでOK)から銀行取引も可能だし、今まで課題を持っていた人が事業の場を自分たちでつくることができる。地域の中で経済をまわしていくことができる。
 

(宮間さん)
福祉の実践者から一歩踏み出すのはどうすればいいのか?というときに、いろんな分野で活動している支援者つながるカフェメンバーと対話する・仲間になっていくというのは最初の踏み出し方の一つだと思う。
福祉の人たちとお金を稼いでいくにはどうしていくのがいいのか?

(寺井さん)
例えば飲食の場づくり。いわゆる飲食店は保健所の許可を得ないといけないが、酒屋のイートインスペースは保健所の許可がいらない。パッケージされた食べ物は売れるし、それ以外は持ち込みOKにしてしまえば実質的には飲食店のようにできる。大きい冷蔵庫でクラフトビールだけ買ってもらうようにして、冷蔵庫だけなら数10万円。飲食店をつくるには500万円かかると思っている人と、数10万円くらいからいけますよね、と思っている人とでは全然違う。そういうのもコツの一つ。実はそういうコツや強みを福祉の人はたくさん持ってると思う。

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今回もグラレコでイベント全体を書き留めていただきました。
完成したグラレコがこちら。

©︎oichi kana


<ラップアップ>
ビジネスと福祉は、別物であり交わってはいけないと潜在的に思い込んでしまっている支援者も少なくないのではと感じます。
ビジネスと福祉はその延長線上にあり、その人の可能性を信じ、環境を整える。人に仕事を合わせていくという視点に切り替えていくことが重要。

今回のテーマは重層事業でしたが、松戸の事例やまちづくりの視点から、その活動におけるコミュニティとアソシエーションのバランスを意識し、議論を重ねる上での言語の共通認識を持つことからスタートなのだと気づきました。

どんな街を作るのか…はどんな人がどのような暮らし方をしているのか、ということに関わるのではないか?街に優しい人、そういうマインドを持つ人をたくさん増やしていきたいと考える機会になりました。


vol.2のイベントレポートをお届けました。ここまでお読みいただきありがとうございます。いかがでしたでしょうか?
私たちの「地域とともに暮らす」を紐解く探求は始まったばかりです。
vol.3は2024年9月29日を予定しています。
またレポートにしていきます。引き続きよろしくお願いします!!


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