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ぬか床、それは愛の代名詞か?

今月からぬか漬けを始めた。
冷蔵庫に納められるサイズのぬか床セットを見つけたのがきっかけ。


亡き父は晩酌を欠かせない人だった。
毎晩、食卓には、細々とした酒の肴が副菜とともに並べられ、父がお酒を楽しむペースに合わせて、食事が進んでいった。

そして父がひとしきりお酒を飲み終えるたところで、
お味噌汁とぬか漬けと白ご飯が登場。

ようやく長い食事が終わる。

こんな食事スタイルだったから、
白ご飯とおかずを一緒に食べる習慣がまるでなかった。
白ご飯とぬか漬けが1セットだった。

(後年、兄が高校のとき友達の家でいただいた夕食で、初めて白ご飯とハンバーグを一緒に食べたとき、あまりの美味しさに感動したと言っていたが、今にして思えば、確かに子供にはかなりそぐわない食事パターンだったかもしれない。)


父は生粋の九州男児である。母も同郷で、20歳でひと回り上の父とお見合い結婚をした。これだけでもう、私の育った家庭の基本方針が、男尊女卑となる未来はほぼほぼ予感できる。

子供にだけは先に白ご飯を、なんて発想はない。いや、もしかしたら母にはあったのかもしれない。だが、そんなことは絶対に、絶対に、母からは言い出せるはずもない。そして私も兄も、それが当たり前だと信じていた。いや、もしも仮に、世の中には、食卓に白ご飯とおかずが一緒に並んで、交互に食べる食べ方があるんだよとだれかに教わったとしても、決してそうしてほしいとは、口が裂けてもいえなかっただろう。それくらい、父の存在は圧倒的だった。

そんな父のために、母はいそいそとぬか漬けを作った。大きな台所に置かれた茶色の樽。毎朝、毎昼、毎晩、暇さえあれば母はいつもぬか床をかき混ぜていた。色白で細い母の指先は、ぬか床の匂いしかしなかった。


父が亡くなってからも変わることなく母はぬか床をかき混ぜて、ぬか漬けを作り、仏壇に供え続けた。

私が結婚して家を出るときには、新しくぬか床を作って持たせてくれた。(もっともこのぬか床は、とても手入れができなくて、あっという間にだめになってしまうのだが‥)
(→ゆえに今回のぬか床セットに行き着くのだが)

夫のために家族のために。
それが母の愛情の示し方だった。


そうして年月を経て、私もまたぬか床をかき混ぜ始めている。

それは何のためなのか?
だれに向けての愛情なのか?

はたまた、ただ美味しさを味わいたいがためなのか?


とりあえずは毎朝毎晩、愛を込めてかき混ぜよう。






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