本田さんの炎上を考察してみる

ホントはもっとほのぼのした話を書きたかったけどタイムリーな話を優先。

ちなみに、ウクライナとロシアの問題ではありますが、話のテーマは紛争のこと自体ではなく、心理検査の解釈からみる炎上の考察であります。

この記事、どちらかに肩入れせずにフラットな立ち位置でまとめられていてとてもよい。

先に自分の意見を書いてしまうと、本田さんの言わんとするところはツイートを全部読めばだいたい理解できるように思うし、たぶん批判してる人たちの大多数よりもロシアの事情を知っているし友人も多いであろう本田さんが今回の軍事衝突に心を痛めていることも伝わってくるから、批判されるようなことではないと思うんだけど、唯一、本田さんに足りなかったのは「共感(の記述)」だな、と。


何度も引用してるP-Fスタディという心理検査が、自分はとても好きなんだけど、それはRosenzweigという方のフラストレーション耐性理論に基づいて、人がフラストレーションを感じたときのアグレッション(ここでは「攻撃性」というよりも、より広い意味で「感情表出」とか「主張」という意味合いで使われている)を、その「方向」と「表現型」で分類し、その人の反応のパターンを見ていく、という検査。
簡単にいうと、「ストレスがかかったとき、どういう反応をしがちか?」というのを調べる心理検査です。

まず、「方向」の方は、「自責」と「他責」、それに「無責」に分類される。
この、アグレッションの「方向」については、以前、「無責的思考のすすめ」というエントリーを書いたので、ここでは割愛。

別に、それが正解ってわけじゃあもちろんないけど、どちらかというと、「自責」や「他責」よりも、「仕方がなかった」とか「そんなこともあるさ」とかの「無責」的思考の方が幸せにつながりやすいんじゃないかな、という個人的考察。

で、今回は、アグレッションの「方向」ではなく、「表現型」の話。

表現型についても、「障害優位型」「自我防衛型」「要求固執型」の3つに分類されている。

「障害障害型」は、起こってしまった問題そのものに対する反応。
「自我防衛型」は、問題の責任がどこにあるのか、責任の所在を追求しようとする反応。
「要求固執型」は、問題解決のための表出をする反応。

ざっくり言うとこのように分類されている。(と自分は理解している)

アグレッションの「方向」と「表現型」それぞれ3つずつあるので、分類のパターンは3×3の9種類。

例えば、「上司に理不尽に叱責された」という場面で言うと、

「ああ、また怒られてしまった」というのが自責的・障害有意型。
「自分が悪い」「自分のせいだ」が自責的・自我防衛型。
「明日までに必ずやり直します」が自責的・要求固執型。

「八つ当たりしやがってふざけんな」は他責的・障害優位型。
「押し付けたオマエの責任だろ」は他責的・自我防衛型。
「パワハラだから人事課に言いに行こう」は他責的・要求固執型。

「いつものことだし大したことじゃない」が無責的・障害優位型。
「しょうがない、そんなこともある」が無責的・自我防衛型。
「帰りにケーキでも買って帰ろう」が無責的・要求固執型。

(P-Fスタディの専門家ではないので厳密に言えば違うのかもしれないけど自分はそのように解釈しています)

当然、どの反応が正解、というものではなくて、個人個人、反応のクセのようなものがあるから、自分がどういう方向、どういう表現型でフラストレーションに対処しがちであるか、ということを理解し、そして、ストレスをためないようにするためにはどのような表現型に変えていくのが望ましいか、そういう自己分析をする上でとても役に立つツールだと思う。ストレスを抱えている現代人の皆さんにおすすめです。


「表現型」の話に戻ります。

「障害優位型」は、起こってしまった事象、ストレスそのものに対する反応であるから、今回の軍事衝突に関して言えば、「また戦争が起こってしまって悲しい」とか、「戦争反対!」とかがこれに当たる。
「自我防衛型」は責任の所在を追求する反応だから、当然、プーチン大統領を批判する反応が大多数であろう。ゼレンスキー大統領や西側諸国首脳の対応についての不満もここに含まれる。
「要求固執型」は、起こってしまったことはおいておいて、とにかく問題解決のためにどうしよう、という反応だから、軍事衝突そのものはおいておいて、この衝突をどうやって解決すべきか、それを考えるべきだ、という反応になる。

ここで、改めて、本田さんのツイートを見てみよう。

本田さんは、ロシアに肩入れしているわけでも、ウクライナを批判しているわけでも、戦争を肯定しているわけでももちろんない。「戦争を回避するにはどうしたらよいか」について、自分の意見を言っているだけだ。
つまり、本田さんのツイートは、純度ほぼ100%の「要求固執型反応」であったわけだ。

要求固執型反応をする人は現実主義的な人が多いんだと思う。全くエビデンスはないけどトップアスリートはリアリストが多い気がする。刻一刻と変化する状況に合わせて瞬時に最適解を選択しなければならないから、「障害優位型」の反応をしている暇がないのではないか、と思ったりしている。
(話はそれちゃうけど芸術家は真逆で、感性や情緒が大事だから、障害優位型・自我防衛型が多い印象。根拠はありません)

自分は、「戦争反対!」って言ってても、それに共感してくれるのは、もともと「戦争反対!」って思ってる人だけで、戦争反対じゃない人たちがそれを聞いて考えを改めてくれるとは到底思えないし、プーチン大統領を批判したところで本人は意に介さないだろうし、それなら、現実的な方法を考える本田さんの考え方(内容ではなくそのベクトル)に、より共感する。
でも、これがなぜ批判を受けるか、そのメカニズムも自分なりに理解しているので、その主張の前提として、かなり丁寧に自分の気持ちを記載すべきだったな、とも思う。

そう、この炎上の発端って、よくある「感情」と「論理」のすれ違い問題が大きいように思うのです(いやもちろんそれだけじゃないですけど)。

仕事から帰宅した夫に、奥さんが、「今日スーパーで欲しい商品の最後のひとつを横取りされた」とか「店員も見ていたのに何も言ってくれなかった」とか、そういう話をしたとき、それを聞いた夫が、「そういうひとはどこにでもいるからしょうがない」とか「それならお店の人に文句を言えばよかったのに」とか言うと、大抵の場合、奥さんをブチギレさせて終わる。
言うまでもなく、奥さんのほしかった言葉は、「解決」ではなく「共感」であるからだ。

「要求固執型」傾向の人は、最短距離で解決に向かうことが最善であると無意識に考える傾向がある(気がする)。感情がないわけではもちろんないんだけど、そこをあまり重視していない(言うまでもない、あるいは言ってもしょうがないと思っている)から、口にしない。そうすると、結果として、感情のない、とても冷たい人のような印象を与えてしまう。

だから、前述の状況だと、夫は、奥さんのストレスに共感して、いっしょに怒って、その苦労をねぎらうべきであった。
…というと、その夫側の人は「そんなことは当然わかっていたし、共感もしていたんだけど、怒りに囚われていても何も解決しないから」とか言うんだけど、相手に伝わっていない時点で不十分だし、共感が得られていない状態で解決策なんか提示しても納得してもらえるわけがない。
アドバイスは、内容も大事だけど、「誰に」「どんな状況で」言われるかが、場合によっては内容以上に重要になることもあるのです。

なので、「炎上を避ける」という見地から言うと、本田さんは、ツイッターという短文しか投稿できないSNSであったとしても、人の命がかかったとても大切な問題だからこそ、まず最初に、多くの人の共感を得られるように、「自分は何としても戦争を回避したい」「ロシアやウクライナにも友だちがいるし、とても心配している」「一刻も早く状況が解決することを願っている」という自分の気持ちの部分を、本人がいちばん言いたかったであろう主張の前提としてツイートするとよかったんじゃないかな、と。
そこを表出しないで、感情の部分をすっ飛ばしていきなり現実的な解決策の話をしたもんだから、極端に言えば人の心がないような、冷たい印象を(一部の人に)与えてしまったんじゃないか、と思う。せっかくよいことを言っていたとしても、いちどそういう印象を与えてしまった人には、内容はもはや届かない。
そしてさらに、批判を「読解力がない」と切り捨ててしまうと、せっかくの建設的な意見が曲解されてしまうし、意図しない方向に盛り上がって(炎上して)しまう。それは彼の本意ではないはずだ。

ただ、批判している人も、この一連のツイートを見て、「ロシアに肩入れしている」とか「言いなりになれと言うのか」とか「ウクライナの人々の気持ちを考えろ」とか言うのは、さすがに感情的すぎるんじゃないかな、と思う。その後のツイートを読めば、そうじゃないのはわかるはず。

「感情」と「論理」、「共感」と「解決」、どちらもちょうどいいバランスで持っていたいものです。
あとは、やっぱり、「わかりあえやしないってことをわかりあうのさ」ですね。


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