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今頃退職届を書いているはずだった

今頃退職届を書いているはずだった。

何度もググって確かめたから書き方は完璧だ。
仕事初めは4日。他の社員は休みなので提出は6日になりそうだ。
全体朝礼はかったるいし、終わったくらいに出勤して上司を呼び出そう。

「すみません、少しお話が」
「なに?」
「えっと、ここではあれなんで、別室で」

もうこの時点で私の意向は伝わるだろう。
奥の会議室に入ると、残された同僚たちはざわめき扉に聞き耳を立てるのである。

「突然なのですが、本日いっぱいで退職させていただきます」
「だめだよ」

席に着いたら、気まずくなる前に切りだしてしまえ。
おそらく上司は止めるだろう。これは自負ではない。
一人当たりの仕事量を見れば、慢性的人員不足で猫の手も借りたい状態なのは社会を知らない小学生でもわかるだろう。

ここは全力で退職を阻止しに来るはずだ。

直属の上司を乗り切っても役員というラスボスが待っている。
「君はまだ何も成し遂げていないじゃないか」とか「忍耐力がない」とか時代錯誤な人格否定を受けるかもしれない。

しかし、そういうときの忍耐力だ。
その数十分を我慢すれば、ネズミのコスプレをして踊らなければならない新年会も無理やりねじ込まれたプレゼンもスルーできる。

私が本来歩むべき華やかなる人生が幕を開けるのだ!


というシミュレーションを脳みそが擦り切れるくらいした。
しかし、

宝くじははずれた

惨敗。大赤字だ。

昨年は御神籤でも大吉を連発し、友人の結婚式の二次会でNintendoスイッチも当たった。ツイている自覚があった。
もう当たらないわけがないと、わざわざ行列のできる売り場に赴き、人生初の宝くじを60枚も買った。

高額当選したらどうしよう、と想像しているうちに、空想は確信に変わり、頑張るのも今年いっぱいまでだと言い聞かせこの一か月を過ごした。

後輩にジュースもおごったし、来たる決戦に備えメンタル強化術を説いた自己啓発本を読み漁った。

人生はそう簡単には変わらない。

新年会は出ないといけないし、プレゼンもしないといけない。
ダンスも覚えて、企画書も作らないといけない。

しないといけないことは一個も減らないけれどそんなやる気はみじんも起きないので、録りだめたお笑い番組をぼんやりと見ている。
そうしている間にも一秒一秒お正月は終わっていく。
じりじりと自己嫌悪だけを残して。

noteさんの「#note書き始め」というお題を見つけ、私だって2020年の未来予測とか抱負とか書いてみたかった。

今、考えられるのは、人生はそう簡単に変わらない、ということだけだ。
だから私は今日も書く。
お正月だからって前向きになれない人が、自分を責めたり嫌になったりしないよう、2020年も書き続ける。


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