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福祉・医療制度改革ズームイン!(4)~高齢・障害サービスの間で起きる「65歳の壁」を考える~

ニッセイ基礎研究所上席研究員
三原岳

福祉・医療制度改革を論じるコラムの第4回では、いわゆる「65歳の壁」を取り上げたいと思います。これは障害者が65歳以上になった後、障害者福祉サービスよりも、介護保険サービスの利用が優先するように求められることで起きる様々な問題を指します。既に一部自治体の判断が民事裁判に発展しており、現場のケアマネジャー(介護支援専門員)の皆さんにとっても、頭の片隅に入れておいた方がいいテーマと思います。

そこで、今回は障害者福祉サービスと介護保険サービスの間で起きる「65歳の壁」の背景や論点、現場のケアマネジャーが留意した方がいいことなどを論じたいと思います。

◇ 「65歳の壁」が生まれる背景

まず、高齢者介護と障害者福祉の関係性を簡単に整理します。そもそも、両者は他者のケアを必要とする点で共通しており、英語でも「長期療養(long term care)」という言葉で一括りにされます。
実際、両制度を簡単に比べても、2005年頃に制度の統合が模索されたことで、基本的な構造は相似しています。

具体的には、介護保険制度では、ケアマネジャーによるケアプラン(介護サービス計画)の作成を経て、サービスが利用される流れになっており、障害者総合支援法でも類似した仕組みとして、計画相談支援が整備されています。サービスの種類に関しても、ヘルパーが自宅などで支援に当たる介護保険制度の「訪問介護」と、障害者総合支援法の「居宅介護」など、一部の機能は共通しています。

しかし、制度としては、「65歳以上の高齢者=介護保険法」「18歳以上65歳未満=障害者総合支援法」という形で、年齢に応じて区分されています。そのイメージは図1の通りです。つまり、65歳になるまでは原則として障害者総合支援法が適用されるものの、65歳を超えると、介護保険法の適用が優先されるという仕組みです。これは一般的に「介護保険優先の原則」と呼ばれています。

この原則について、国は「一つのサービスが公費負担制度でも社会保険制度でも提供されるときは、国民が互いに支え合うために保険料を支払ういわゆる社会保険制度のもとでそのサービスをまず御利用いただく」(2017年4月12日衆院厚生労働委員会における塩崎恭久厚生労働相の発言)と説明しています。

つまり、税財源(公費)を使っている障害者総合支援法よりも、社会保険料を主な財源とする介護保険法が優先されると言っているわけです。実際の問題として、社会保険料だろうが、税財源(公費)だろうが、国民の懐が痛む点では同じなので、分かりにくい整理ですが、制度の運用上、「社会保険料を先に使え」というルールになっているわけです。
(なお、40歳以上65歳未満のケースでも、がんなど一部の疾患に関しては、介護保険サービスが利用できるため、図1で介護保険サービスを意味する赤色が左に少し入り込んでいます)

ここで、もし両制度の違いが小さければ、年齢を重ねても「壁」は生まれないはずですが、現実的には移行に伴う負担増などが生まれています。これが「65歳の壁」と呼ばれる問題です。

こうした「壁」が生じる最初の理由として、制度面の違いを指摘できます。両者の制度は似通っているとはいえ、いくつか考え方に違いがあります。

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