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福祉・医療制度改革ズームイン!(6)~先送りのオンパレード、介護保険の2割負担拡大はどうなる?~

ニッセイ基礎研究所上席研究員
三原岳

2024年4月からの制度改正に向けた論点として、介護保険の2割負担対象者を拡大する是非が論じられていましたが、最終的に結論は2027年度以降に先送りされました。これで2022年末、2023年夏、同年12月と3回も先送りが続いた形です。

 では、なぜ何度も結論が先送りされるのでしょうか。あるいは今後、どんな展開が予想されるでしょうか。ケアマネジャー(介護支援専門員)の皆さんにとって、2割負担の問題は利用者の懐事情に関わる分、関心が高いと思いますが、今回は2割負担を巡る議論の経過と論点、展望を考察します。


2割負担の対象者拡大を巡る経緯

 最初に、介護保険の2割負担を巡る議論を少し振り返ります。介護保険制度では元々、所得に関係なく、1割負担が採用されていましたが、厳しい財政状況に鑑み、図表1の通り、2015年度に2割負担、2018年度に3割負担が導入されました。


図表1:介護保険の利用者負担のイメージ
出典:厚生労働省資料を基に作成

このうち、1割負担と2割負担を線引きする所得基準は単身世帯で280万円、2割負担と3割負担の線引きは340万円に設定されました。

 その後、2024年度制度改正に向けた論点として、2割負担の対象者拡大が浮上しました。つまり、280万円という所得基準を引き下げれば、2割負担の対象者が広がる分、公費(税)や保険料の軽減に繋がるため、財務省や健康保険組合連合会(健保連)、財界が対象者の拡大を主張したわけです。

 ここで、見直しの目安とされていたのが「220万円」でした。現在の280万円という基準は「被保険者の上位20%」程度であり、これを220万円に引き下げることで、2割負担の対象者を上位30%程度に拡大する是非が関係者の間で意識されたわけです。

 しかし、社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)介護保険部会では、意見対立が浮き彫りになりました。具体的には、委員として参加する健保連や財界が負担増を主張したのに対し、利用控えに繋がるとして、業界団体が2割負担の対象者拡大に反対したためです。

 結局、2022年12月の介護保険部会意見では、図表2の通り、両論を併記した上で、結論が2023年夏に先送りされました。

図表2:両論併記となった2022年12月の介護保険部会意見書
出典:厚生労働省資料を基に作成


先送りの連続

 それでも介護保険部会の意見は集約されず、2023年夏とされていた結論は2023年12月に持ち越されました。

 その後、2023年12月の介護保険部会では図表3のような試算が公表され、9種類のシナリオが示されましたが、やはり意見が対立しました。これは筆者の推測ですが、事務局の老健局としては、意見対立が解消しないことを予想した上で、敢えて220万円よりも低い選択肢も含めて、9つのシナリオを並べることで、政治に判断を委ねたと思われます。

 しかし、結局は2027年度に予定されている次の制度改正までに結論が先送りされました。その理由については、推測するしかありませんが、自民党は今、裏金問題に揺れており、内閣の求心力が下がっています。こうした中、国民の負担増を求める見直しは進めにくいと判断されたと思われます。

 以上、結論が先送りされた経緯や背景を検証しましたが、こんなに結論が何度も先送りされるのは極めて異例です。その背景として、どんな点が考えられるのでしょうか。以下、この点を論じます。

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