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【母子手帳はへその緒】すべてを奪われてゆく現実に、正気を失いかけた私は、よく「自分」に戻れたもんだ。

vol.12【ワタシノ子育てノセカイ

2018年、子の連れ去り審判中、なぜか私の親権が機能しなくなる。

子どもたちの保険証を渡してください。
 そうですか。
子どもたちの診察券を渡してください。
 そうですか。
子どもたちのパスポートを渡してください。
 そうですか。
あなたが持っている必要はありません。
 そうですか。
子どもたちとは自由に会えませんよ。
 なんでやねん。

子どもたちの母子手帳を渡してください。
 『いやです』

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母子手帳は日本生まれ。

産前産後の母親と赤ちゃんの健康を守る記録帳で、継続的に母子をケアするツールなんだ。現に、日本の妊産婦と赤ちゃんの死亡率の低さは世界トップレベル。

母子手帳の功績は大きく、今や日本のみならず、世界中の母子の命を守っている。

母子手帳はお母さんと赤ちゃんの、命の軌跡なんだな。

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昨今、母子手帳を親子手帳などに改名する議論が続いていた。育児参加に熱心な、男性からの声があったとかなかったとか。

しかし手帳の「母」の意味を、男女平等の観点で勘違いしてはいけない。子どもを産めるのは生物的に「女」なのだから。そもそも多様性の時代に、男女平等云々を問いかける今は、もはや周回遅れなのかもしれないな。

ゆえに母子手帳の名称変更の動きを裏返すと、多様性の概念を育む力が、私たち自らにないからともいえそうだ。考える力は努力や根性ではどーにもならなくて、頼れるのはシステムとなるから。

とはいえ2023年にリニューアルする母子手帳の名称は変わらないと決まったらしい。

理由は「慣れ」てるから。

習慣には「仕組み化」と「思考停止」がある。母子手帳は日本の子育て指針を、ダイレクトに公示するツールでもあり、リニューアルは10年ごと。

今後10年間の日本国の子育て指針をひとり妄想中。

ーーー

2022年9月某日、10歳ジロウとの密会にて。

「お母ちゃん、ジロウの赤ちゃんのときの大きさとか書いた、ノートみたいなやつある?」

学校でなにやら母子手帳の話がチラッとでたらしい。だけど課題があるわけではないようだ。理由はよくわからないが、とにかく生まれたときの大きさを知りたいとジロウがモジモジする。

もちろん私は母子手帳を大切に保管している。タロウの手帳と一緒にしまい、微動だにさせていない。我が子との繋がりを証明できる「モノ」は、もう母子手帳くらいしかないんだな。

ーーー

久しぶりに母子手帳を目にすると、いろんな記憶が鮮明によみがえってきた。情けないかな、私はまだ、ひとりで手に取れないでいたんだ。

誕生直後の記録ページをジロウが見つける。

「お母ちゃん、あれ?グラム?ん?え?」

2986グラムを見つけて、ジロウはプチパニックになっている。片や母は妊娠中からの10年以上が走馬灯状態。

「3キロぐらいやなぁ。身長は何センチ?」

またもや目を凝らすジロウは、49センチに固まる。私は右手と左手で49センチをつくってみた。

「こんな小さいのがこんな大きいなってんな」

そう言いながら、49センチの両手をジロウの頬へ伸ばす。するとジロウはなんだか赤ちゃんみたいになって、でも体は大きくて、お腹に抱えた10か月と、共に暮らした5年と、離れて暮らした5年が、ごちゃまぜになった。

いつのまにか私は目がまっかっかで、頬を固定されたままジロウが笑う。

「また泣くんかいっ」

母はタロジロに泣き虫認定されている。

「だってすごいやん。こんな小さかったのにこんな大きいなってんねんで?感動してそら涙もでてきますがな」

くり返す言葉と私の両手はせわしなく、はじける頬のジロウの瞳は柔らかい。いちごのショートケーキみたく、甘くて穏やかな時間が流れている。

母子手帳は愛の栄養が行き交うへその緒らしい。

10歳ジロウの身長は只今145センチ。もうじき赤ちゃんジロウの3倍になる。体重は13倍くらいかな?

ジロウのとびつき抱っこ、160センチの母はまだまだ受け入れ中。

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たとえ誰に何を言われようとも、圧力に屈してはいけない。心を奪うような思考停止の圧力なんて、強くしなやかにかわしてしまえ。自分を見失った時点で、無意識に醜い圧力側になってしまう。「自分」を信じて貫けば、過去の自分が必ず未来で迎えてくれるから。

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久しく呼吸して
愛を注ぐ母子手帳さんたち


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