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下を向いてゆっくり、ゆっくりと歩くお婆さんの傍らにはいつも、その愛犬が居た。

朝、車で南下する通勤の道すがら、腰が大層曲がった80代ほどのお婆さんを認識したのは、今から10年ほど前になるだろうか。

初見では、二度見、三度見した。腰は文字通りくの字に曲がり、顔は一切見えない。愛犬に目を任せて歩くその姿は、まさしく地面を舐めるように歩く、というような比喩がぴったり当てはまるものだった。

進んでは立ち止まり、進んでは振り返るその愛犬と、お婆さんとの何気ない日常の一コマ。一本のリードでつながる2人の姿に何か、美しさを感じた。

最近その2人を見ることはなくなった。

同じ道を通るたびに、歩道にわずかに残る記憶と2人体温が重なる。

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