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アストルムとアエテルニタス①

アストルムは空に浮かぶ小さな小さな光のつぶ。
あまりにも小さな子供のようなつぶ。
夜ごと空に浮かんでは、ちらちらとまたたき銀色の透明な涙をこぼしていた。
アストルムには心を渡した相手がいた。
それは空に浮かぶ大きな大きなルーナと言う名の光だった。
ルーナは美しく、白く輝いていた。
アストルムはルーナのことを想うといつも泣いてしまう。
その理由は物知りのソルに聞いても、わからないと言う。
ソルはアストルムに問うた。
「アストルムよ、どうしてお前はルーナに心を渡してしまったのだ。そんな大事なものを、どうして?」
「ソル、君はルーナが笑うときのことを知っているだろう。物知りな君なら説明するまでもない。」
「それはもちろん知っている。あれはたいそうなものだ。しかし簡単に心を渡すのは友としてすすめられない。」
「けれどもう、渡してしまったら簡単には返ってこないんだ。それに僕はルーナに心を渡せて良かったと思っているよ。」
「それはどうして?」
「それは…わからない。ソル、君ならわかるかい?」
「いいや、わしにもわからない。」
「珍しいこともあるのだね。」
アストルムはこうしてソルと話しながら夜を待つ。
そう、ルーナと同じ空に並べる夜を。

その夜、ルーナは細い光をたたえていた。
刃物の先のような鋭さを思わせる、繊細な輝きだ。
アストルムはそっと、それを見上げていた。
「アストルム、どうして私を見ているの?」
ルーナの声はしゃらしゃらと鳴る鈴のようで、それだけでアストルムはどきどきする。
少しまごまごしたあと、ルーナよりずっとずっと小さな光はやっと聞こえるくらいの声で答えた。
「だ、だってルーナ、君には僕の心をあげたでしょ?だから気になって…。」
「あら、そう。そんなに気になるなら返せるわよ。」
「返さなくていい!ルーナ、僕が心をあげた理由をわかってよ。」
「わからないわよ、私には。」
「それは僕も同じだよ…。」
アストルムの光がより小さくなった気がした。
そこへ、遥か遠くの流れ星が落ちる音が聞こえてくる。
きらきら、きらきら、と音をたてながら流れ星は夜の底に向かって落ちていく。
アストルムもルーナもしばらく黙ってそれを見ていた。
そしてしばらくしてから、ふたりは目を閉じて祈った。
「また、アエテルニタスに願い事をしたものがいるのね。」
「みたいだね。もう二度と空へは戻れないのに。」
目を開いたアストルムのすぐ隣に、ルーナがいた。
アストルムは驚きのあまり、真っ赤に光ってしまう。
「どうしたのよ、そんなに赤くなって。」
「だ、だって君が僕の近くに来るから!」
「ふふ、お前の心をもらって良かったかも。」
ルーナが笑った。
するとしゃらしゃら、と言う音と共に花がどこからか浮かび上がり、より明るく光るルーナの辺りを漂った。
アストルムは花の香りにも、ルーナの眩しさにもくらくらとする。
そして渡してしまったはずの心がぎゅうっとするのがどこかでわかった。
そのあと、アストルムとルーナは夜が明けるまでふざけあった。

《つづく》

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