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「今、最高に美味しい」を追求する。異なる文化をつなぎ、土地と響きあう一皿/鈴木義豪さん - LA MAISON ANCIENNE

山梨市牧丘町。ぶどう畑に覆われた地に、一軒の古民家がたたずんでいます。そこは、フレンチレストラン「LA MAISON ANCIENNE」(ラメゾンアンシェンヌ)。

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門をくぐり、庭園の石畳を踏んでいった先に待ち受けているのは、和のテイストでまとめられたシックな佇まいの空間です。ここで料理をたしなむと共に、料理に表現されているシェフの思想をうかがいました。

オーナーシェフは、鈴木義豪さんです。

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鈴木義豪(すずき よしたけ)さん
LA MAISON ANCIENNE/シェフ
1978年静岡県生まれ。幼少期からの夢であった料理人を目指し、大阪の調理師専門学校で学んだ後、「ザ・ペニンシュラ東京」などのホテルで技術を習得。そして2016年6月、山梨市牧丘町に完全予約制のレストラン「LA MAISON ANCIENNE」をオープンし、独自の発想と進化し続ける調理法で「最高のおいしさ」を作り上げている。

「今、最高に美味しい」の追求

鈴木さんが料理人になろうと思ったきっかけは、中学生の頃に見た、有名シェフが対決する料理番組だったそうです。

「その時のフレンチシェフの風貌が恰好よくて、料理もきれいで。いつか自分もこうなりたいと思いながら見ていました」

高校卒業後は、憧れの存在を目指して調理師専門学校へ通い、東京の一流ホテルなどで経験を積みました。当初から自分のお店を持つことを目標にしていた鈴木さんは、十数年の修業を経て、独立を考え始めます。

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そして2016年6月、建設業を営む義父から紹介された牧丘の古民家を活用し、「LA MAISON ANCIENNE」の看板を掲げてその夢を叶えました。お店のコンセプトは、「今、最高においしい」。これは、完全予約制・コースのみという営業スタイルに反映されています。

コース料理は、「Basic(5000円)」「kodawari(7000円)」「special(10000円)」の3種類(2022年2月現在)。内容はおまかせで、席に着き、その時が来るまで何が出てくるかはわかりません。

料理をとりまとめる指揮者として

料理には決まった名前がなく、主原料+調理法が料理名の代わりになっています。季節によって素材が変われば調理法も変わり、年間を通して同じメニューではないため、あえて名前をつけていないのだそうです。その時々の、最高のおいしさを提供しているからこそでもあります。

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まず運ばれてきたオードブル「玉ねぎのロティ」は、山梨市の隣にある甲州市産の玉ねぎ。間に挟まれたバニラの芳香が鼻を抜けていきます。

「昔からずっと試行錯誤を続けている、思い入れのある一品です。無理に火入れをすると旨みを逃してしまうので、玉ねぎの甘さを引き出せるギリギリのラインを狙って、表面からじっくり1〜2時間かけて焼きました」

最高のおいしさを作り出すための工夫は幾重にもなされていますが、まずは食材選びから始まります。料理に取り入れるかどうかは、おいしさが第一条件ですが、食材が育った環境や作り手の想いにまで触れたうえで材料を決めているようです。鈴木さんは自身の食材選びを、オーケストラに例えてこう語っていました。

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「自分が指揮者だとすると、単に上手な演者を寄せ集めるだけでは、思ったような音楽をつくれません。自分のイメージと合う人を選んでこそ、思い通りの表現をすることができます。だからどんなにおいしくても、作り手の思想に違和感を感じたら、その食材は自分の料理には取り入れません」

仕入れの際は密にコミュニケーションをとりながら食材の状態を確認し、納得したものを取り寄せています。メイン料理「スズキのグリエ」に使われていた魚は宮崎県産で、「津本式」という血抜き方法で処理されたものでした。

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「新鮮なほうがおいしいと思っていましたが、津本式の魚は、熟成によっておいしさが増します。お出しする当日に魚のコンディションが最高になるようこまめに管理し、今回は3週間ほど熟成させました。焼く時はコンフィ・ヴァプール・グリエ・炙りという4種の技法を用い、魚の種類や状態によって、各工程にかける時間や温度を変えています」

食材の持ち味をいかに引き出して調理し、どのようなコース構成にするかを考えるのも、指揮者としての重要な役割です。鈴木さんは、作り手を少しでも応援したい、もっと多くの人に知ってほしいという願いを込めて、食材に磨きをかけています。

メインの肉料理「鹿肉のロースト」には、県内にある明野町の「八ヶ岳ジビエ」のお肉が使われていました。嫌な臭いは一切なく、鹿肉の滋味深さを堪能できます。

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「ジビエは捕獲してからいかに冷やしこむかが大事なのですが、ここでは凄腕の大将が獲物を一発で仕留め、わざわざ冷凍車で加工場まで運び、しっかりとした処理を施しています。そのこだわりの肉を、表面をやけどさせずに中心部まで火が通るよう3時間ほどかけて火入れし、香ばしさも食感も楽しめるように仕上げました」

作り手の想いまでをも乗せた一皿は、鈴木さんだけの作品ではなく、作り手との共同制作といえそうです。作り手への尊敬が、そのまま食材への信頼に繋がっているようでした。一皿に乗せて届けたい想いがあるからこそ、その想いを託すことのできる最高の食材が必要不可欠なのだと思います。

「できるだけ身近な食材を、とは思いますが、山梨のものだからといって贔屓するつもりはありません。料理を通して、本当に良いと思うものをアピールしていきたいです」

和食というピースを、フレンチのパズルに埋め込む

どのような一皿にするかを考える時、鈴木さんには大きなひとつの軸があります。それは、「日本料理のお出汁を飲んでいるかのような繊細さがあって、丁寧で、かっこよくて、斬新」な料理にすること。これは、とあるシェフの料理を食べた時の感想のようですが、鈴木さんもその背中を追って新たなフレンチの形を模索しています。

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「フランスのコピーでなく、自分たちの文化を取り入れて、型にはまらないオリジナルな料理をつくることを心がけています。小さい頃から触れてきた和食の考え方を、フランス料理の技法に当てはめたらどうなるか……自分が思った以上の仕上がりになると、楽しいですね」

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冬場の一番人気という「フォアグラのフラン」は、フォアグラの旨みが閉じ込められた濃厚なフランの上に、4種のきのこソースがかけられていました。フォアグラはフレンチの代表食材ともいえますが、この一品はフレンチに偏りすぎない和の要素を持ち合わせ、素材の旨みが引き出されていました。

「修行時代、日本で一番といっていいほどフォアグラを扱っていた時期があるので、ほとんどの確率でフォアグラ料理をコースに組み込むようにしています。おいしくないものを食べて苦手意識を持っている人も多いので、その概念を覆したいという想いもあります」

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料理の着想は、時には山梨という地が培ってきた文化から得ることもあるようです。たとえば、干し柿づくりが盛んなところに着目してできたのが、自家製のからすみ。これは、山梨の気温の低さと、乾燥した気候あってこそ作れるものです。干し柿そのものではなく、作られてきた歴史・文化的背景を料理に取り入れています。

「からすみは、塩漬けした魚の卵巣を塩抜きするのに日本酒を使いますが、それだと普通の日本料理になってしまいます。なのでワインで塩抜きし、フレンチらしくアレンジしてみました」

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山梨とフレンチの文化が融合したからすみは、「あん肝と大根」のお皿に散りばめられていました。出汁をたっぷり含んだ大根の上に濃厚なあん肝が置かれ、からすみの塩辛さが味のアクセントになります。

「あん肝自体はどう調理するか決まっていない中で注文し、届いてから悩んで生み出した一皿です。自分が使いやすい食材や好みで料理が偏ってしまうのを防ぐために、たまにこうして自分に課題を課しています」

料理を語る上で技術的なことをいえばきりがありませんが、食材選びからコース構成までのすべてを鈴木さんが担うからこそ、「最高のおいしさ」を味わうことができます。昨日は今日の、今日は明日の美味しさへと繋がり、鈴木さんの最高は日々更新されていきます。

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「何度も来てくださるお客様を飽きさせることのないよう、新鮮味を感じられる料理にしているつもりです。最近は新たなお皿を取り入れて雰囲気を変えてみたり、そうすると自然と料理も変わってくるので、もっとブラッシュアップしていきたいですね」

お店に入り、席に着けば、フレンチコンサートの幕開けです。お披露目される一皿ごとに胸は躍り、次は何が出てくるのかと期待が高まります。すべての演目が終わったとき、心の中では壮大な拍手が鳴り響き、しばし余韻に浸ってしまうことでしょう。

風土を味わう体験を提供したい

料理と共に、ワインとのペアリングも用意されています。どちらか単体では味わえない、ワインと料理が出会ってこそ広がる、奥深いひとときを演出してくれます。鈴木さんは休日などを利用して、選びきれないほどあるワイナリーに足を運び、料理にぴったりなワインを厳選しています。

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周辺には、果物も豊富にあります。春先のデザートは、いちごのコンソメスープ・フレッシュいちご・いちごチップなどが重ねられた、いちご尽くしの一品でした。使いたいと思える良い状態のものを自分で選べるメリットが、最大限に生かされているようでした。

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このように、店をとりまく環境に恵まれていることも、店の魅力のひとつだと鈴木さんは言います。それは食材に限らず、富士山を見渡せたり、辺り一面がぶどう畑だったり、星がきれいなロケーションであることなども含まれます。「LA MAISON ANCIENNE」は、食事を楽しむだけではもったいない場所です。

「お店に足を運ぶことで、この地だからこその体験をしていただきたいですね。古民家自体に興味があっていらっしゃる方もいますが、人が来れば地域にお金を巡らせることに繋がるので、ワイナリーや農家さんのお役に立てたら嬉しいです」

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お店に場としての意味をもたせつつも、鈴木さんは自分のところだけに人が来ることをゴールとしているわけではありません。この場はあくまでも地域全体に人が集まるための、通過点として捉えているようです。地域を盛り上げたいという思いが重なれば、イベントにも積極的に出店しています。

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「牧丘も過疎化が進んでいるので、少しでも活気づけるお手伝いができたらと思っています。この場でお客様を待ち受けるだけでなく、たまには自ら出向いて店の外で活動するのも楽しいですしね」

料理が通過点となり、それをきっかけとして、地域に人が巡ることが鈴木さんの願いのようです。

作り手、食材、お客さん、そして地域のこと。
さまざまな方面に想いを巡らせながら、鈴木さんは楽しく真剣に、今日の最高の一皿を作り上げます。

LA MAISON ANCIENNE
営業時間/ランチ11:30~1組,13:00~1組 完全予約制・ディナー17:30~1組 完全予約制
定休日/火曜日
所在地/〒404-0003山梨県山梨市牧丘町倉科5662-5
電話番号/ 0553-88-9152

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連載「土地と想像力」
本連載はTSUMORIと山梨市観光協会が協働で取り組む情報発信事業です。「土地と想像力」をテーマに、記号的な山梨とは異なる領域で土地を支えているヒト・モノ・コトを発信していきます。山梨県全域を対象に、自治体圏域に捉われない「山梨らしさ」を可視化することを目指しています。

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取材・執筆:おがたきりこ
写真撮影:田中友悟
協力:山梨市観光協会

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