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ストローを登って【掌編】799字

奇妙な種を手に入れた。

園芸に特別興味はないが気まぐれで土に植えてみた。

芽が出た時に支えになるようにと一緒にプラスチックのストローも刺しておいた。

思い出した時に水をやって、しばらくしたら伸びてきた。

ただし、伸びてきたのは芽ではなくストローだった。

ストローはぐんぐんぐんぐん伸びていった。まるで童話のジャックと豆の何とかみたいだなと思った。

鉢植えから外に植え替えてしばらくしたら、ストローの先は見えないほど天高く伸びた。

童話と同じように登ってみた。ストローの側面はつるつるして素手では登れないのでゴム手袋をはめた。確か人工ゴムもプラスチックの仲間だったと思う。

どんどん登っていくとある国についた。大男も金卵を生む鶏もいなかった。

「ここはプラスチックの国です」と地上の民と変わらない姿の住民が言う。

たしかに、その天空の国ではストローはもちろん、皿やコップ、袋、飲み物の容器まで全部プラスチックでできていた。

地上とさほど変わりないなと思った。

「プラスチックでできた車や家、ロボットなんかはないのか?」

「プラスチックで作るには少々耐久性が心配ですよ」

「地上ではもうあるぞ」

「進んでますねぇ」

プラスチックの国でしばらく過ごしたが、段々と飽きてきた。言うほどプラスチックは使われていないし、地上とそれほど大差ないからだ。

「ここよりもっと上に国はないのか?」

「かみの国があります」

神が天空にいるという概念は民自体が天空人でも変わらないのかと感慨深く思っていると、

「誤解されているようですが、『神』の国ではなく『紙』の国です」

なんのことはない。プラスチックの国と同じように紙の国がこの上にあるのだ。

「紙の国はどうなんだ?」とあまり期待せずに聞いてみる。

「なんと紙の国では紙のストローの導入を予定しているそうですよ」

「紙のストローか。地上ではもう出回っているよ。あれはあまりよくない」

「地上はもう紙を超越したんですね」


2021年6月


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見出し画像にイラストをお借りしました。



上手いこと言った気になってるシリーズ


爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!