深更の青月【掌編】(455字)

深夜の高速道。

グゥーンという走行音を聞きながら後部座席で眠りこけていた。

父の運転する乗用車で東京へ。早朝には都内に住む伯母の家に着く予定だ。

小学生の俺にとって翌日からの東京観光はもちろん、夜中に家を出て移動するという非日常感もたまらない。

いつもだったらとっくに寝ている時間。普段トイレにも起きない俺には夜10時以降は知らない世界。

胸を躍らせていた俺だったが、走行音と静かな揺れが心地よく幸せな気分で夢の中へ。

何度目かの半覚醒の後しばし目が覚める。相も変わらず高速道路上。母も助手席で寝ているようだった。前方のデジタル時計に目をやるとAM2時過ぎ。

完全に未知の時間帯だ。ある種の感動に浸りながらもう一度眠りにつこうかと目を閉じかけた。

ふと空が気になりルーフウィンドウに目をやる。

澄み切った冬空に散る白い星たち。その中でひときわ目をひくのはボゥと青く輝く丸い月。

夜中の月って青いんだぁ……。新発見に感動しつつ再び幸せな眠りの中へ。

それから十幾年。

夜の仕事をするようになった俺だが、あれ以来青い月には出会えていない。


***


2020年9月に書いたものです。


爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!