希望の赤【掌編】(644字)

 色のない世界。

 病室も窓の外も白一色。

 そんな中、唯一僕の心を癒してくれる赤。僕はそれを見ることだけを楽しみに毎日を生きている。

 病院窓からはアパートが見える。そのアパートも色味のないつまらない外観をしているんだけど、窓から見える一室、そこに希望の赤がある。

 いつも僕をお世話してくれる高橋さんの話では、看護師や看護学部の学生たちが暮らす女子専用のアパートらしい。

 あの赤も高橋さんみたいに素敵な人のだといいな。そう思いながら僕は窓の外の小さな小さな赤を今日も見つめる。

 あの赤は僕にとっての希望。

 枯れ木に残る一枚の葉のように、洗濯ハンガーに残りいつまでも取り込まれない真っ赤な女性用下着。それは僕に生きる勇気を与えてくれる。

「そうなのよ~」

 野太い看護師長さんの声が廊下から聞こえてきた。

 師長さんの神林さんはいい人なのだけれどガサツなところが合ってちょっと苦手だ。僕は布団を頭から被り寝たふりをする。

 部屋に入ってきて機器の点検をしながらもう一人の山田さんと話をしている。山田さんも師長さんと同じくガサツなので僕は苦手だ。

「じゃあ、あれって神林さんのなの?」

「そうそう、ここからも見えるでしょ、カラス除けになるかと思って使い古したのをね」

「やっだ~、神林さんったら、あんな真っ赤なパンツ穿いてるの~」

「気に入ってたんだからぁ~、もうゴムなんかダルダルでね、最初はまた穿くつもりだったんだけど取り込むの忘れちゃってそのまま。もう3か月は干しっぱなしかな」

 僕は目の前が真っ暗になった。

 こんなんだったら白だけの世界の方がよかった。


***


2021年1月


爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!