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信長のタイキョク【掌編】604字

高い場所は偉い人の特権だったという。こんな本当かどうかわからない情報が頭をよぎった。天守閣から街を見下ろす殿様が目に浮かぶ。偉くなくても丘だったり山だったりいくらでも高い場所に行ける方法はあっただろう。とはいえ、人工物に限ればそのとおりかも知れない、昔は。

現代の私は全く偉くなく逆に、対極にいるとも言えるが、こうして高い場所にいる。一ミリも偉くなくてもこうして街を見下ろすことができている。ヒエラルキーの沈殿物でありながら、物理的にはいくらでも高い場所に行くことが可能なのだ。人類の培ってきた技術力を使って。たとえその発展に全く貢献していなくても。

眼鏡が落ちて行った。ネジが緩んで直そうと思っていた物だ。思っていただけ。この期におよんでは何の意味もない。
潰れる音が聞こえるかと耳を澄ましたが何も聞こえてこなかった。
軽すぎたか。ではもっと重いものでは? と必然的に考える。
もしも下に人がいたら? 眼鏡くらいでは何ともないはずだ。もっと重いものでは? それを確認するには眼鏡が必要だったし、そもそも眼鏡があったとしてもこの暗闇では何も見えない。
つまりはせっかく私に示されたこの道を今は進むことができない。光り輝いて見えるのに。視界がぼやけているだけだろうか。
コンタクトをつけるか、それともいっそレーシックをするか。レーシックは数年後悪影響があるかもしれないと聞く。そう考えて悩んでしまう私は馬鹿なのだろうか。

爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!