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投稿サイトの利用者はみな【掌編】1,514字

 創作投稿サイトにハマっている。他の人の書いた文章を読みにいく。顔も年齢も性別もはっきりしないが、この人は若いなとか、この人は年を重ねた人だなとか、この人は普段忙しいんだろうなとか分かってくる。日記やエッセイをあげている人もいる。この場合は、全てを鵜呑みにすればであるが、その人の情報が結構わかってくる。こういう背景があるのかと思いをはせながら、その人の書いた話を読むとより味わい深くなった。

 自分でも話を投稿している。ありがたいことに反応してくれる人たちもいる。私の書く話は結構偏っていると思うのだが、それを喜んでくれる人がいると思うと嬉しい。とすると、感性が似ているのだろうか。もしくは、頭のおかしい奴を観察している感覚なのだろうか。どちらにせよありがたい。

 コメントをくれる人たちも自身で話を書いているので読みにいく。そうしてその人のことを想像する。こういう欲求があるのかもしれない。こういうことに悩んでいるのかもしれない。

 ふと、ある仮説が頭をよぎった。あの恐ろしい話を書いている人も、あの心温まる話を書いている人も、あの笑える話を書いている人も、あの鋭いコメントをくれる人もみんなみんな全員、監獄に収容されている囚人ではないだろうかと。

 あんなにもアットホームな話を書いているあの人も実は囚人で懲役十年ぐらいくらっているのだ。心の闇を描くのが上手なあの人はやっぱり囚人だったのだ。もう三十年ぐらい服役しているのかもしれない。あの甘酸っぱい話を書く人は少年院かな。もしくは十代の頃はシャバで過ごしてそれから収監された囚人かもしれない。

 囚人がネットに投稿なんてありえないと思うかもしれないが、ストレス対策とか何とかでネットに話を投稿することだけは許されているのかもしれない。もしくは囚人が紙に書いた物を手渡して代理人がそれを投稿しているのかもしれない。いや、他の人の書いた文章にコメントをしていることを考えたら前者の可能性が高い。

 会社だ、学校だ、家庭だと言っているがそれは収監前の記憶か、もしくは妄想に過ぎないのだろう。そうか、みんな囚人だったか。そう考えたら笑えてきた。ファンタジーも純文学もエッセイもミステリーもSFも全部ホラーじゃないか。カテゴリーを全部ホラーに統一するべきじゃないか。

 そうか、そうか。みんな硬い畳に正座しながら坊主頭かおかっぱ頭で看守に見張られながら書いてるのか。ふかふかのソファやオフィスチェア、ゲーミングチェア、恋人の膝の上で書いているんじゃなかったんだな。

 そうか、そうか。ファンタジーのあの人もラブコメのあの人も週に夏は三回、冬は二回しか風呂に入れないのだ。料理描写の上手なあの人もITに詳しいあの人も平日の三十分間しか外に出て身体を動かせないのだ。

 みんなみんな番号で呼ばれているのだ。毎朝点呼されているのだ。夜は時間になったら眠くなくても目を閉じなければいけないのだ。いや、だからこそ、いろいろとストーリーを考えることができるのか。

 みんな、投稿サイトにいる人たちはみんな囚人だったのだ。そう考えると腑に落ちた。見方が変わってくる。そうか、そうか。みんな同じ仲間だったんだな。自分だけが毎朝ビクビクしているわけじゃなかったんだ。早く行け、早く行けなんてみんな思っているだろうか。いや、懲役囚だったらそんな風には思わんか。まあ、懲役の奴らは奴らで大変だわな。毎日毎日、刑務作業があるわけだから。会話なんてできないから、まあそこでストーリーを考えてるのかもしれない。

 そうか、そうか。なんか気持ちが楽になったよ。私も引き続きのびのび書かせてもらうことにするよ。足音が止まるその時まで。


2021年10月


見出し画像に写真をお借りしました。


爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!