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『おこえ診断くん』【小説】1469字

この新アプリを使えば、声の主が今、どんな感情で話しているのか瞬時に診断してくれるんです。それでは、ちょっと試してみましょう。斎藤さん、何でもいいので話してみてくれますか?

「そ~ですね、いきなり言われましてもね。私は元気で~す」

はい、ありがとうございます。この斎藤さんの発話を診断してみますね。

〈困ってるよぉ。困ってるよぉ〉

困っていると診断が出ましたね。斎藤さん、この結果はいかがでしょうか。

「自分ではできるかぎり元気よく言ったつもりなんですけどねー、読み取られちゃってますね」

そうなんです。表面的な感情ではなく、深層を読み取ってくれるのがこの『おこえ診断くん』なんです。皆さんもぜひ、ダウンロードして遊んでみてくださいね。

***

『おこえ診断くん』問い合わせコールセンターにて


はい、お電話ありがとうござい――。

「おい! どうしてくれんだよ、お前んとこのアプリ、嘘ばっかじゃねぇか、おかげで恥かいたぞ!」

詳しくお聞かせいただいてもよろしいでしょうか。

「詳しくも何もねーよ、あぁ? 後輩の結婚式で俺がスピーチした時によぉ、誰かアプリを使ってたみたいなんだよ。そん時によ、俺ん時に〈気分悪いよぉ。気分悪いよぉ〉なんて言いやがった。他の奴らん時は〈嬉しいよぉ〉とか〈緊張してるよぉ〉だったのに。何で可愛がってる後輩が結婚するっちゅーのに〈気分悪いよぉ〉なんて思わなゃなんねーんだよ。こんなん嘘っぱちだろ!」

確認の為に今、アプリを使用してもよろしいでしょうか。お客様の声とアプリの相性が悪い可能性があります。

「勝手にしろよ!」

はい、起動させていただきます。それでは、何か発話をお願いいたします。

「おめーらのアプリは嘘っぱち!」

〈怒ってるよぉ。怒ってるよぉ〉

怒ってると診断が出ましたが、正しいでしょうか。

「はぁ? おめーは馬鹿かよ! この状況は誰が見ても怒ってんだろうがよ! あんま馬鹿にしてっといいか? あぁ?」

失礼しました。それでは他にご不満な点があれば——

「あぁ、あともう一つ、バーちゃんの葬式に出た時だよ、孫代表で俺が挨拶をしたんだよ。そしたら、どっかのクソガキがアプリを使いやがった。そしたら、何て診断されたと思う?〈愉快だよぉ。愉快だよぉ〉ときたもんだ」

そうでしたか……。お怒りの気持ち、お察しいたします。

〈怒ってるよぉ。怒ってるよぉ〉

アプリも怒っていると診断が出ています。その時だけアプリに不具合が生じたのかもしれません。確認のためにしばらくアプリはこのまま起動しておいてよろしいでしょうか。

「勝手にしろよ。もぉな、怒りを通り越して悲しいよ。大好きだったバーちゃんが死んでんだぜ。今、思い出しても泣けてくるよ……」

〈愉快だよぉ。愉快だよぉ〉

「俺はこんなんだからよ、ただでさえ親戚連中から色眼鏡で見られてるって言うのによ、こんなガラクタアプリで」

〈怒ってるよぉ。怒ってるよぉ〉

「結婚式の時もそうだ。昔から舎弟みたいに可愛がってきた後輩がよ、俺より先にいい子を見つけて結婚しやがったんだ。嬉しいじゃねぇか。それをおめー……」

〈気分悪いよぉ。気分悪いよぉ〉

「まぁ、早い話がどう責任取るんかってことよ。あぁ? わかってんだろ? 金だよ、金! こっちはおめーらのアプリのせいで多大なる被害を被ってんだからさぁ!」

〈楽しいよぉ。楽しいよぉ〉

「マスコミに垂れ込んだっていいんだぜ、あぁ? それをこっちは親切に報告してやってんだ。損害賠償だけじゃなく謝礼金も寄こせよ、俺のおかげでもっとアプリの質を高められんじゃねーかよ、あぁ?」

〈楽しいよぉ。楽しいよぉ。最高に楽しいよぉ〉


2021年10月


見出し画像にイラストをお借りしました。


爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!