話せない話【掌編】875字
今から私がする話は誰にも言わないでくださいね、他言無用ですよ。
というのもね、これは呪いの話なんですよ。人に話そうとすると呪われるんです。
いやね、私はもう何もかも嫌になってしまったんで呪われても別にいいやと思っているんです。
でも、あなたはまだ呪われたくないでしょ。だから誰にも話そうとしないでくださいね。
聞くだけなら大丈夫ですから安心してください。
でも、もし、人に話したくなっても我慢してくださいね。
人に話そうとして呪われても私は知りませんからね。聞くだけにしておいてくださいよ。
人に話そうとして呪われても私の責任じゃありませんから。
いいですか。
話しますよ。
……。
……。
……。
だめだ、やっぱり話せません。
これだけ引っ張っておいて申し訳ないのですが、やはり話せないみたいです。
気になりますよね。本当にすみません。
でも、呪いが。
呪いのせいですよ。
呪いがなければ話せたんですよ。
この話をあなたに聞かせたかったなぁ。
話を聞いてもらってあなたがどう感じて、どう思うのか聞いてみたかったです。
それでその後の人生にどう役立てるのか、それとも自分には関係のない話だと忘れてしまうのか、5年後ぐらいにまた話してみたかったです。
でも、それも叶わないんですね。
すみません。でも、呪いのせいなんです。
いえいえ、私が呪いを恐れて話ができなくなったわけではないんです。
この話は人に話そうとすると話せなくなる呪いなんですよ。
話そうと思ってもどうしても話すことができないんです。
嘘じゃないですよ! 本当に私はこの話をあなたにするつもりはあったんです。
嘘だと思うのならあなたも誰かに話してみたらいいじゃないですか!
呪われても知りませんからね。
文字で書いて伝えるのもだめですからね。ジェスチャーなんかもだめです。
この話は誰一人として他人には伝えられないんですよ。
伝えようとすると、とたんに無理になるんです。そういう呪いなんですよ。
できるもんならやってみてくださいよ。
ほら、私に話してみてください。
どうですか? 話せないでしょ?
もう呪われてるんですよ。
これが話そうとしても話せない呪いです。
2021年7月
見出し画像にイラストをお借りしました。
爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!