見出し画像

シアワセ家族の晩餐【掌編小説】1,345字

いたずらっ子の五歳の娘が何やらニヤニヤ。
何かたくらんでいるみたいですよ。

「パパ、のど乾いたでしょ、お水のんでほら」

若い父親は娘のいたずらに気付いていますが……。

「そうだなぁ。今日は暑かったからな!」

そう言って、娘が差し出したグラスを飲み干しました。

「ゴボォ、ゴホッ! こ、こら、パパの水に何か入れたな?」

「うふふっ。パパ、おはなのお水のんだー!」

「お花の水って花瓶の水か? あの玄関のスイセンの花瓶だなぁ? まったくもぉ」

企みがうまくいってキャッキャと笑う娘。

道化を演じながら自然に笑顔がこぼれる父親でした。

この二人のやり取りを、さらに優しい笑顔で見つめる若い母親。

「さあ、二人とも冷めないうちに食べなさいね」

「はーい」と娘は目の前に置かれたトマトとジャガイモのグラタンを食べ始めました。

「あなた、ごめんなさい。トマトとジャガイモ、自家栽培だったからあまり採れなくて。あなたにはグラタンの代わりにトマトの葉とジャガイモの芽のサラダ。ソースも自家製だから美味しいはずヨ」と母親は申し訳なさそうに言います。

「オ父サン、トマトとジャガイモのグラタンは私のものです。オ父さんはトマトの葉とジャガイモの芽のサラダを食ベてくダサイ」と娘も続けました。

それはもう言ったからいいの、と若い母親は娘を軽く小突きました。

「ん? いいさ、ダイエット中だから。あっ、さては二人してパパを何がなんでも痩せさせるつもりだな? まったくもぉ」

まったくと口では言いながら、自分の身体を気遣ってくれる二人の気持ちを思い胸がいっぱいになる若い父親でした。

「でも、代わりにあなただけに特別」

そう言いながら、母親は戸棚の奥から一皿持ってきました。

「パパだけにとくべつ」と娘もまねします。

「おっ、これは……馬刺しかな?」と父親。

「ううん、これはねぇ、豚刺し。珍しいでショ?」と若い母親は微笑みます。

「おお! 食べたことないなぁ」

「それだけじゃないの。ほら、今日は特別でしょ。だから、奮発しちゃった」

「特別……? 何かあったかな?」と首をひねる父親の前に出されたもう一皿。それは白身魚の刺身のよう。

「ん? これ、もしかしてふぐ刺しじゃないか? すごい、贅沢ぅ!」と目を輝かせる若い父親。

「喜んでもらえてよかった。私がね、捌いたの。この皮とか卵巣とかプルプルして美味しそうじゃない?」と母親。夫の喜びは自身の喜びとでも言わんばかりの笑顔を作ります。

「他にも肝臓も食ベテクダサイ。肝臓、卵巣、皮の順にどk、食べることをおすすめシマス」と娘も笑顔。

「すごい、皆で食べようよ!」と言う夫に、

「私たちはお刺身はあんまり食べないから、ネー?」

「ネー」と母親と娘。

「そうだったっけ? じゃあ、遠慮なく。うーん、でも、こんなに美味しいものばっかり食べたらダイエットの意味なくなっちゃうぞ。せっかくサラダ食べたのに」

「大丈夫よ。ダイエットによく効くサプリメントもらったの。ほら、メッキ工場の奥さんから。シアン化カリウムって言うんだって」

「ふーん、聞いたことないなぁ……。食後に飲んでみるよ」

幸せ家族の夕べはこうして更けていきます。
お互いを思いやれる彼らだったら、これからどんな困難があっても乗り越えていけるでしょう。
頑張れ、若い家族。末永くお幸セに!


オラヴ153/タロットで人生を詠むさんにリクエストをいただきました。ありがとうございます。

スイセンの花瓶の水、トマト(ナス科)の葉、ジャガイモの芽、生の豚肉、素人が捌いたフグ、シアン化カリウム(青酸カリ)。

お試しあれ、と言いたいところですが、全部危険だそうです。詳しくはググってくださいませ。


爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!