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こんな風に思ってます。【掌編】1,390字

考えてもみてよ。

自分がブサイクだからといってブサイクを好きになるわけじゃない。普通にイケメンや美女が好きだから。まあ妥協することはあるだろうけど。

自分がオッサンだからといってオッサンに好感を持つわけじゃない。普通にオッサンは嫌だから。まあ清潔感があってカッコいいおじさんは別だろうけど。

自分が不潔だからといって……あ、もういいって? 分かってくれた?

自分が霊だからといって霊が怖くなくなるわけじゃない。普通に怖いよ。

確かに私も生きている時はそんな風に考えてたよ。霊になったら怖いもん無しになるって。

でも、違ったね。生きている時よりも怖いものが増えた。霊は普通に怖いし、何より生きている人が怖いもん。

いや、怖いっていうのとはまたちょっと違うかな。何ていうか後ろめたいっていうか、気後れするっていうか。

だからこそ、ひと気のない所にいるわけだから。

ほら、自分が陰キャだとして、隣に陽キャが来たらなんか居心地悪いでしょ。それを100倍居心地悪くした感じ。

だから霊さんの中には機嫌悪くしちゃう人もいると思う。悪霊なんて言わないであげてよね。

ほら、人里離れた山の中で仙人みたいな生活している人がいるでしょ。そんで人が来たらブチギレてカマ持って追っかけてくるみたいな。それを100倍過激にしたのが機嫌悪い霊さんだから。

霊はさ、生きてる人間みたいにいかないから。フラストレーションも溜まるよ。だって物を触れないんだもん。スマホを持てない、物を食べられない、働けもしない。浮いてるだけ。

そんなんだから社会的な生活はしたくてもできないのよ。そういう霊の組織もないしさ。会社も学校もない。

まあ、仮にあったとしてもさ、私は霊感がないから他の霊さんと交流できないしね。

……あ? なに笑ってんの? あーそっか、霊になったら他の霊が見えると思ってんだね。

そんなことない、霊だろうが霊感がなければ見えないし感じない。だからこそ怖いんだよ。

さっき話した霊さん事情も、会いに来た霊能力者に聞いた話だからね。もちろん、生きてる人間。他の霊さんたちもそんな感じみたいよ。

霊もね、まあメリットがないわけじゃない。

食べる必要もない、働く必要もないってことは暇だけど気楽ではあるわけ。そういうのが好きな人にとっては楽しめるんじゃない?

私は過労死出身だからさ、最初は抵抗があったけど今はこの恩恵をありがたく受けてるよ。

うーん、あとよく聞かれるのは、人んちに勝手に忍び込めるじゃんとか、お風呂覗けるじゃんとか。でも、ほら、基本生きている人間嫌いだし、性欲もないし。

映画館は行ってみたいなと思うんだけど、人怖いしちょっとね。それに映画に出ている人って生きている人間だけじゃん? だから後ろめたさを感じて昔のようには楽しめないかもね。

そんな感じかな。

あんたは霊感あるけど、あんまり霊に会ったことない感じだね。

意外とフレンドリーで驚いたって? まあ、生前は営業職だったからね。はらわた煮えくり返ってても表には出さないよ。

……ほら100倍過激にした感じって言ったじゃん。

今からあんたを呪い殺すからね。うーん、それぐらいしか楽しみがないのよ。

霊はできることが限られているけど、呪いというか精神を汚染するというかそういうことはできるし、何をやっても裁かれないからね。エクソシスト的な人も現実にはいないようだし。

ま、死んでも化けて出ないでよね。怖いから。


2021年5月

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見出し画像にイラストをお借りしました。


爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!