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ねえおじさん【小説】413字

ねえおじさん、ねえおじさん。

理由を教えておくれよ。

座り慣れた家のソファでもなく、空調の効いたカフェでもなく、日だまりにあるベンチでもなく、こんなドブ川の橋に腰掛けてうつむいている理由を教えておくれよ。

ブクブクとガスが上がってきて生臭い臭いで鼻が曲がりそうだよ。でもおじさんはここを選んだんだろう。

その理由を教えておくれよ。

この場所じゃなきゃダメだったんだろう。僕にはわかるよ。

このドブ川だけがおじさんを慰めることができるんだろう。ソファもカフェもベンチもおじさんをわかっちゃくれない。このドブ川だけなんだろう、おじさんには。

さあ、どんな顔をしているか、見せてくれよ。

うつむいてないでさあ。

いい年して泣いてるなんて思わないからさあ。鼻水垂らして汚いなんて思わないからさあ。

ねえおじさん、ねえおじさん。

顔を上げておくれよ。

さあ、惨めだなんて思わないからさあ、お顔を見せておくれよ、さあ。

なあんだ、泣いてたんじゃなくて笑ってたのか。


2021年11月


見出し画像に写真をお借りしました。


爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!