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美女の○○をおくれ――っ!!【小説】2,370字

あれは、大学卒業間近のことでした。

知り合いに誘われてキャンプに参加したんです。就職したらしばらくは遊ぶ暇もなくなるだろうってことで。

僕は当時片思いしていた女の子を誘いました。付き合う一歩手前くらいの。ええ、一番楽しい時期ですよ。その子を仮にA子さんとしておきましょう。

参加者はその知り合い、行きつけの定食屋の店主だったんですけど、その知り合いの知り合いなので知らない顔ばっかりでした。でも、みんな気のいい人たちでした。

飲食店関係者が多かったので食べ物は豪華でした。豚の丸焼きがあったりして。

好きな人もいる、気のいい人たち、食べ物も豪華、言うことなしですよ。とっても楽しいキャンプでした。

もう10年以上前になりますね。

そのキャンプが僕の人生を狂わせることになるとは思いもしませんでした。

子連れも多かったんです。僕とA子さんは1人の小学生の男の子と仲良くなりました。

年も近いということでお兄さん、お姉さんという感じで懐いてくれましてね。人懐っこくてちょっと太めの可愛らしい子でした。B男くんとしておきましょうか。

川で水切りしたり、近くの公園の遊具でふざけたり、夜には火を囲んだりと3人で楽しく遊びましたよ。

あれは、河原で花火をしてテントのある場所まで戻る時だったと思います。僕とA子さんとB男くんは並んで歩いていました。

前後の会話は忘れましたが、B男くんがこんなことを言うんです。

「一つだけ願いを叶えてやろう」

まあ、おふざけですよ。僕もそれに乗ってやろうと思いました。

だから、こう叫んだんです。

「美女のパンティをおくれーーっ!!」

ほら、有名な漫画のセリフですよ。小学生から大人まで大人気の少年漫画です。いやね、本当は「美女」じゃなくて「ギャル」なんですけどその時は間違えてしまいました。

でも、問題なくB男くんにもウケてキャッキャと笑っていたと思います。

A子さんはその時、「大金持ちになりたい」って答えたんですよ。マジなのか冗談なのか分からなくて僕たちはそれにも笑いましたね。

それから、そのキャンプが終わってから僕とA子さんは付き合うことはありませんでした。

僕は上京して就職、A子さんは院に進んでお互いに忙しくなりましたから。B男くんともそれっきり会っていません。

嫌味に聞こえたらごめんなさいね。でも、これが話の核なので失礼しますね。

A子さんとは付き合うことはできませんでしたが、それからというもの僕はモテにモテました。しかも、美女ばっかり。

もちろん、そういう関係にもなりますよ。付き合っているんですから。まあ一夜だけの関係もあるんですけどね。

気付いたら美女の下着を手にしてるんですよ。……思い出しませんか。

キャンプの時にB男くんに「美女のパンティをおくれーーっ!!」って願ったじゃないですか。

自慢じゃないんですよ、これ。よく聞いてください。

美女のパンティは手に入るけど、他の願いが叶わなくなっちゃったんです。

仕事のこと、趣味のこと、美女を除く人間関係、全て。

あの案件を取りたい、出世したい、資格試験に合格したい、新しいカメラが欲しい、コンクールで賞を取りたい、お隣さんと仲良くしたい、そういう願うこと全てが叶わない。思うようにいかない。

僕は今、何をしていると思います? ヒモですよ。仕事もクビになり、趣味も人間関係もうまくいかない。何をしても上手くいかない。それでも美女にはモテ続ける。美女に養ってもらいパンティを手にするぐらいしか僕にはできないんです。

……ほら、みんなそんな反応なんです。

確かにあの時、僕は「美女のパンティをおくれーーっ!!」って願いましたよ。でも、それはあくまでも冗談です。冗談のつもりでした。

そりゃ、僕も男ですからそういう欲がないわけじゃない。でも、僕はどちらかといえば淡白な方なんですよ。美女をとっかえひっかえなんてしなくてもいい。本当に好きな人とだけそういう関係になればよかったんです。それこそA子さんみたいな人と。

美女にモテまくる代わりに他の全てがうまくいかないこんな人生、僕が思い描いていたものじゃない。

まあ、あの時、オリジナル通りに「ギャルのパンティをおくれーーっ!!」と願わなかったのがせめてもの救いですよ。

ギャルは嫌いじゃないですけどそういうタイプばっかりっていうのもね。それに私もどんどん年を取っていきますし。ギャルとオッサンでは犯罪になってしまいます。

美女はまあ幅がありますからね。

全部、私の妄想じゃないかって?

ええ、そう思われるのも無理はないと思います。でも、これを聞いたら妄想じゃないってわかってくれるはずですよ。

私はね、B男くんにもう一度会わなければと思い、キャンプのメンバーに聞いて回ったんですよ。でも、誰もB男くんのことを知らない。しかも、あの時はあんなにフレンドリーだったのにみんな僕のことを邪険にするんですよ。……美女を除いて。

何もかもうまくいかない僕が正しい情報を得られていないだけかもしれませんよ。でも、B男くんは神の類だったんじゃないかと僕は考えているんですよ。

それにね、A子さんは今どうしてると思います?

A子さんはね、今、大金持ちになってるんですよ。ほら、彼女は「大金持ちになりたい」って願ったじゃないですか。

何でもある特許を取ったらしくて。あの後、院から企業の研究所に入ってそこで新技術を開発したらしいですよ。

そんな頑張り屋なA子さんを僕は好きだったんです。

……はい、正直言えばまだ未練はありますよ。

え? 願えばA子さんも虜にできるんじゃないかって?

言ったでしょ。僕はね、美女のパンティを得ることしかできないんですよ。

A子さんは……A子さんは、お世辞にも美人なタイプではないのでね。僕は、本当は美人よりぶ、いや……個性的な顔の方が好みなんですよ。

これでもまだ僕のこと、羨ましいと思いますか?


2021年5月





見出し画像にイラストをお借りしました。このような話に使用してしまい恐縮です。


爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!