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完成したら見れない絵【掌編】671字


「素敵な絵ですねぇ」

「ありがとうございます。でも、これは下書き、というかこれを基に本番の絵を描くんです」

「それじゃあ、もっと素敵な絵になるんですねぇ」

「どうでしょうか。本番の絵はこれの何倍も大きくは描きますけどね。でも、絵を描いても見てくれるのは最初だけだと思います」

「そんなことないでしょう。こんな不思議な絵、私見たことありません。日本の風景のようでいて……でも決してあり得ない構図で」

「ははは、日本の風景ではあり得ない。確かにそうかもしれませんね」

「唯一無二の絵だと思いますよ。私、本番の絵が完成したら絶対観に行きますから」

「どこにでもある絵ですよ。それに……完成したらもう誰もこの絵を見ることはできません」

「どういうことでしょうか? この絵は公開されないんですか?」

「いえいえ、言い方が悪かったですね。この絵は公開されて誰でも見ることはできます。でもね、1枚の絵として見ることはできなくなるんです」

「すみません。おっしゃっていることがよくわかりません……」

「回りくどい言い方をしてしまったようです。この絵の左右どちらか半分は見ることはできますよ。でも左右を一緒に見ることはできないんです」

「なぜ、そんな風にするのですか?それではこの絵の良さがなくなってしまうのでは……すみません、出過ぎたことを。でも、この2つの山がある構図が気に入ったもので」

「富士山が2つあるのは不思議に見えるでしょうね。でも、これは最初からどちらかしか見えない前提で描かれる絵なんですよ。完成したら見に来てください。いや、入りに来てください。この絵が描かれる銭湯へ」


2021年6月


銭湯ドキュメンタリーか関連する記事を見て思い付いた話だったかと。銭湯の絵って一枚絵なんだぁと感心しました。でも、これってどこでもそうなんでしょうか。


見出し画像に作品をお借りしました。仕様上、フルで載せられず切れてしまうのが残念です。



爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!