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4歳児と29歳児【掌編】(511文字)

世間では鬼だ剣士だなんて騒いでますがね……。

ボクがハマっているのは妖怪のメダル。何十枚もあるんですよ。

ちゃんと鬼だっているんですよ。まあ近所のお兄ちゃんのおさがりですけどね。

ブームだなんだなんて幼児には関係のないことです。なんせ見るものすべて新鮮なんですから。十年前のおもちゃだって楽しく遊ぶ自信がありますよ。

えっ? ボク? ボクは四歳児ですよ。

メダルを貰ってきてくれたお父さんは二十九歳児。大人に「児」は付けないって? いいんですよ。お父さんは身体の大きい子どもですから。

バンドマンなんですけどね。今年に入って仕事が全然来なくなっちゃったらしいんですよ。

計画性なんてないわけだから貯金はない。でも何を思ってか家でゴロゴロしてるんですよ。まあ、一緒にいる時間が増えたから嬉しいんですけどね。

いよいよ大変だぁなんてことになり、知り合いの会社に明日面接に行くって言ってました。むさくるしい長髪をばっさり切って、セット売りのスーツを買って張り切ってましたよ。

寂しくなるけど二人っきりの家族だ。助け合っていこうぜ。稼いだら自分のお金でおもちゃ買ってくれよ。

なんて思ってるかもなぁ。

薄明かりの中眠りこける四歳児。引かれる後ろ髪はもうない。


***


2020年11月に書いたものです。


爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!