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ブリーフとガラパンをめぐる神話【掌編】(1,194字)

かつて僕らは皆、純白の天使だった。遊ぶ時も学ぶ時もいつだってホワイトに身を包んだエンジェル。

時には黄金に染める時もあったけど僕たちが僕たちである証はこの小さな小さな白だったよね。

いつまでもこのタイトな時間が続くと信じて疑わなかった。疑いなんてしなかったんだ。

ある時仲間の一人に異変が訪れた。白を捨て色を身にまとう堕天使の姿。

禁断の果実に手を出しちゃったんだ。一人堕天するともう歯止めは効かない。堕天使の生き方の方が魅力的に見えちゃうんだ。僕らを縛るそれはそんなにも嫌なものだったかい?

残る天使たちは数人。純粋な僕らを堕天使たちは時に罵り、時に甘い言葉で誘惑する。今日も一人堕天しちゃった。

かつては異端だった彼らはもはや主流。自分たちがそうだったことも忘れ僕ら純白の天使を馬鹿にするんだ。

気の弱い天使は天使であることを恥ずかしいと思ってしまう。悲しいけどそうなると堕天するのも時間の問題さ。僕は天使の筆頭として堕天使たちに屈するわけにはいかない。

天から授かりし召し物を変える時着替えの時間には、否が応でも堕天使たちのゆったりとしたそれが目に入る。

正直美しいと思う。白くて小さいだけの僕らのそれと違って、優雅に広がるそれ。そして色とりどりの紋様。一人ひとり違うんだ。

別に褒めているわけじゃあない。いつだって悪しき物は美しく魅力的に見えるものだろう? 堕天した君らには僕らの純白のこれが凡庸でつまらないものに見えているかもしれない。

だけど君たちも知っていたはずさ。僕たちのそれだってみんな同じじゃないことを。

僕らの純白のそれ……いや、純白じゃあないのさ。一人ひとり違う黄金の紋様が刻まれている。それはよく見ないと気づけないかもしれない。でも、だからこそ美しいんだ。慎ましいその紋様は決して人に見せるためのものにあらず。

君たちのそれのように初めから刻まれていたものじゃあない。僕ら自身が刻んできた、言わば僕らの生き様さ。

自ら堕天する者たちばかりじゃあないんだ。父なる存在、母なる存在に促されてそうなる者たちもいる。僕は……彼らはいいと思うんだ。

いつまでも天使のままではいられないのも事実だろう。父なる存在、母なる存在がどうしてもって言うんならそれはしょうがない。

ある堕天した友人も……勘違いしないでほしい。堕天したからといって誰かれ構わず敵対しているわけじゃあない。

その友人が言うにはこうだ。ある朝目覚めるといつもの召し物の他に色ありしそれが用意されていた。代わりに純白のそれはなかった。彼は天命と思い堕天することを受け入れた。

僕もこの展開だったら堕天してもいいかなあと思ってるよ。でも、僕の父なる存在と母なる存在はこういうことには無頓着だから……。

朝目覚めて用意された召し物を一瞥いちべつする。

見慣れた白。否。僕色に染まったそれはもはや白ではない。

大地の色刻みしそれを身にまとい、僕は今日も天使としてお勤めを果たす。


***


2020年11月

爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!