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社会科の産声、『民主主義』の選びかた

突然ですが質問です! 社会科は何を目的とした教科だと思いますか?

「暗記教科だし、劣化版Wikipediaを育成することかな」と思うじゃないですか。実は違うんですよ。民主的で平和な国家・社会の形成者を育成することなんです。(意外でしょ!)

実は社会科、戦後日本の民主化を推進するという重要な役割を担って誕生しました。そんな生まれたてほやほやの頃の教科書が、今日ご紹介する『民主主義』。昭和20年代の本って、戦争への反省と「ここから立派な国つくっていこうぜ!」って思いが溢れがちなんですが、その代表と言っても過言ではありません。

私が生きているうちに改憲の国民投票を迫られるか分かりませんが、例えばそんなことになる前に、「憲法ってなんだっけ?」「民主主義ってなんだっけ?」とじっくり考えておいた方がいいと思うんですよね。

さて、現在手に取りやすい形で残っている『民主主義』が4冊あるのですが、それぞれ特徴が異なります。その特徴をまとめることがこの記事の目的です。中身については踏み込みません。選ぶ際の参考になれば幸いです。

ざっくりしたちがい

Amazonで「民主主義 文部省著作教科書」と検索してみると、4つの版が出てきます。こんな感じです。

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左から順に、角川版、こみち書房版、幻冬舎版、展望社版です。
とりあえず、分かりやすいポイントを2つ示したいと思います。

一点目は、全文載っているかどうかです。全文載っているのは左側の2冊、角川版こみち書房版です。右側の2冊は抜粋になります。

二点目はサイズです。持ち運びしやすいのは角川版幻冬舎販です。前者は文庫判、後者は新書判となっています。

ここまでの話をまとめるとこんな感じです(左から高さ順)。

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左端の平積みのイラスト、厚さを再現してるんです!(我ながら凝り性!)
ざっくりとした違いは以上です。以下、細かな違いについて若干記します。


細かなちがい

まず気になるのは、抜粋版(幻冬舎版と展望社版)には何が載ってるの?ということだと思います(ちがったらごめんなさい)。それをまとめたものがこちらです。

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少々分かりづらい表ですが、ざっくり言えば、展望社版には灰色背景の章のみ載っています。幻冬舎版には灰色背景と黄色背景の章が載っています。

「展望社版の方が大きいのになぜ?」と思われるかもしれませんが、それは展望社版には『あたらしい憲法のはなし』も収録されているためです(この記事の主題の『民主主義』は中学生・高校生を対象として執筆されたもので、『あたらしい憲法のはなし』は小学生を対象としたものです)。

幻冬舎版の列に△がついているところが4箇所あります。章全体は載っていないのですが、その章の一部が巻末に補章としてまとめられていることを示しています。その内容は次の通りです。

幻冬舎版 補章の内容
9章  :「6節 消費者の保護」の結部
10章:「1節 労働組合の目的」の冒頭
15章:「1節 婦人参政権運動」全文
16章:「3節 世界国家の問題」と「5節 日本の前途」全文

全文読みたいわけではない方で、『あたらしい憲法のはなし』も合わせて読みたい方は展望社版一択です。『民主主義』だけ読みたい!という方は、サイズも手頃な幻冬舎版を選ぶのが無難かもしれません。ただ4つの版の中で現代向けのアレンジが最も効いているので、その点が気になる方には不向きだと思います。イラストの一例を挙げるとこんな感じです。

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社会科教育に熱い思いをお持ちの方は全文掲載されている角川版とこみち書房版がおすすめです。というのは「14章 民主主義の学び方」が激アツのアッチッチだからです。自分が火傷したのは次の箇所です。

……社会科のいちばんたいせつな目的は、ひとりひとりの生徒にりっぱな社会とはどのようなものであるかをはっきりと理解させることであり、更に進んで、生徒の中にそのようなりっぱな社会を築き上げようとする意欲と決心とに目ざめさせることである。(14章3節 教育の機会均等と新教育の方針)

社会科教師としてのアイデンティティを見失いそうになった時に立ち戻りたい場所です。角川版とこみち書房版の違いとしては、上の表でまとめた通りイラストや本自体の大きさの違いがあります。本がコンパクトで、イラストが大きいのが角川版です(ロバは角川版を買いました)。それ以外の違いとしては解説の有無があります。内田樹というまあ声が大きい方がいらっしゃるのですが、その方の解説が巻末についています。ちなみにそれはネットでも公開されているのでご紹介します。

とりあえず今日のところはこのくらいで。いつか中身についても紹介したいですし、『あたらしい憲法のはなし』も読み解きたいです。

それでは!


ちなみに、

みんな大好き NDL国立国会図書館デジタルコレクションでも『民主主義』を読むことができます。こちらです。公開されているのはなぜか上巻のみ(11章まで)ですが。

また、みんな大好きTwitterで『民主主義』のbotを運営されている方(@demokurasu)がいらっしゃいます。その方のYouTubeチャンネルもご紹介しておきます。

さらにさらに、かなりの量(上巻の全文と17章)のテキストデータを公開したサイトもあります。買う前に試し読みしたいな、という方にはおすすめです。

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