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ヒップホップ嫌いだった僕が出会ったTHA BLUE HERBという衝撃

「あなたの好きなアーティストについて3つ挙げなさい」という問いがあったとき、3つめに挙げるつもりでいるのが1997年に札幌で結成されたラッパーのBOSS THE MC率いるヒップホップクルー、THA BLUE HERB(ザ・ブルーハーブ)だ。

ぼくはかつて、無理解からヒップホップが嫌いというかなんとなく怖いしよくわからない文化だと忌避していた時期がかなり長くあった。それがまさかトップ3に食い込んでくるまでになるとは、何が起きるかわからない。

なんとなく引き合ったTHA BLUE HERB

ブルーハーブというよりも、BOSSとの出会いとした方がイメージは合っているかもしれない。ぼくが最初にBOSSの存在に触れたのは2016年の福岡・糸島Sunset Liveのステージで、まだ比較的最近の話だ。その頃ぼくはフリースタイルダンジョンをきっかけにヒップホップを知りたい気持ちが強くなっていて、Sunset Liveに足を運んだ動機には、RHYMESTERとCreepy Nutsが出演予定だったから……ということが含まれている。

ライムスとクリピーが出るというフェスのタイムテーブルを眺めていて、「おや」と思ったのがTHA BLUE HERBだった。実は昔、SCOOBIE DOの対バン相手としてその名前がライブスケジュールに載ったのを見たことがある。そのときの2chのスクービースレでの盛り上がりや"THA"という冠詞への違和感が印象に残っていたのだが、その謎のアーティストが出るという。しかもライムスの直前のステージだったので、ちょうどよかった。ヒップホップアーティストらしい、という情報だけ頭に入れて、具体的なことは何も知らないままステージに臨んだ。

衝撃的なステージ

このSunset LiveにおけるTHA BLUE HERBのステージは、今もあまりよく思い出せない。ただ、このステージでぼくが受けた衝撃は、本当に「雷に打たれたような」としか形容できない。大袈裟かもしれないが、ぼくの人生で他にこんな形容をする出来事は今の所他にない。

BOSSはキャップとTシャツと短パンという出で立ちで、マイク一本だけ持ってステージに立ち、ステージの真ん中のスピーカーに片脚を乗せて淡々と歌い始めた。そこに華やかさはなく、大声でがなり立てるわけでもなく、派手なパフォーマンスもなかった。その男は途切れることなく滔々と言葉を吐き出し続けていた。まるで読経のようだった。

異様な光景だった。

この男の言葉を一字一句聴き逃してはならない、ステージから目を逸らしてはならない――本能的にそう思えて、手に汗を握ってステージを観ていた。何分間のステージだったのだろうか。舞台に立ってから降りるまでの間、その男はひたすら観衆に向けて"何か"を語り続けていた。曲と曲の間がどこなのかも全くわからなかった。

釘付けにされた。

オーディエンスは静かだった。圧倒されていたか、反応に困っていたかのどちらかだろう。同行者の一人は終演後に「よくわかんなかったね」と言っていた。ぼくは圧倒的に、圧倒された側だ。THA BLUE HERBがステージから降りた後にはRHYMESTERのステージが続いたが、正直、そっちは本当にあんまり覚えてない。

歴史的瞬間への立ち会い

ほどなくして知ったのは、「THA BLUE HERBとRHYMESTERが連続してステージに立つ」という出来事自体が日本のヒップホップシーンにおける歴史的瞬間だったという事実だ。両者の間にはかつて深いBEEF(ヒップホップシーンにおけるアーティスト同士の対立)があり、両者とも日本のヒップホップ草創期を切り開き現在の礎を築いたキーマンであったにも関わらず、共演の機会は20年来存在しなかった。2016年のSunset LiveにおけるTHA BLUE HERBからRHYMESTERへのバトンタッチとは、歴史的雪融けの瞬間だったのだ。

そんな歴史的瞬間に立ち会えたことを嬉しく思いながらも、そういう背景事情を知らなかったことを激しく後悔した。ヒップホップ、めちゃくちゃ面白いやんけ!!

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歴史的瞬間に立ち会ってただのヘッズと化してしまったCreepy Nutsと、雪融けを果たしたRHYMESTERとTHA BLUE HERBの集合写真。よすぎ

音源からのさらなる衝撃

Sunset Liveの翌日、天神のタワーレコードに走って、THA BLUE HERBのCDを買いに行った。最初に買ったのは3rd ALBUM『LIFE STORY(2007)』。めちゃくちゃカッコよかった。アルバム全体に漂う緊迫感が凄まじく、あのステージの空気感が蘇ったようだった。

そこから遡って、1st『STILLING, STILL DREAMING(1999)』に当たった。当時黎明期だったヒップホップシーンを揺さぶり、R-指定など現在に活躍する多くのラッパーたちに影響を及ぼした名盤。ぼくもご多分に漏れず、食らいまくってしまった。特に「孤憤」にはやられた。音楽と呼べるかどうかすら怪しい、近年の音楽シーンでいうところのポエトリーリーディングの先駆的な曲だが、とにかくBOSSの放つ言葉の力が強い。世界への怒りに満ち満ちていながらも、志を同じくする者への愛に溢れている。

スピーカーの前にあるお前の2枚が、今、西暦何年なのか、どこの国か、街かは想像もつかない。皿は旅をする。時を軽く超える。(「孤憤」より)

このリリックがスピーカーから聴こえてきたときは本当に衝撃を受けた。1999年、北の札幌でプレスされたこの皿に、ぼくは2016年、南の福岡で出会った。スピーカーの向こう側の音楽から突然声をかけられたのは初めての経験だったし、今後もたぶん経験することはないと思う。

ペンと紙

THA BLUE HERBを知った当時、ぼくはかなり暮らしのペーパーレス化を推進していたのだけど、ブルーハーブのリリックに頻出する「ペンと紙」というフレーズに触れて、それに倣ってボールペンと紙のノートを新たに買ってきた。

ペンと紙は思考を整理するのに大いに役立った。岐路となるような選択さえ、ペンと紙から生まれたことがある。こうして毎日noteを書いていても、ペンと紙でしか生まれないようなアウトプットがある。当たり前のツールかもしれないが、もしBOSSに出会っていなかったら、もしかしたらぼくはずっとその存在を忘れていたかもしれない。

ノートにはあれこれ、自分のこれまでの人生のこと、そのとき思っていること、これからのことなど思うままに書きつけた。一冊目のノートは全てのページを埋めるのに2年ほどかかった。この前の年末に2冊めのノートが埋まった。今は3冊めに入っている。ノートとnote。どちらも今のぼくには欠かせない武器だ。

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