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ツクルバ社外取締役・小林賢治さんに聞く【ポストIPOベンチャーの成長ポテンシャルとツクルバへの期待】

ツクルバは、2023年10月27日の第12期定時株主総会にて、新たな社外取締役としてシニフィアン株式会社共同代表の小林賢治さんを選任しました。

小林さんは、グロースフェイズにあるスタートアップへの投資と経営支援を通して新産業の創出に取り組んでいます。日本におけるベンチャーの変遷を数多く見てきた小林さんに、ポストIPOベンチャーの成長課題やツクルバへ感じるポテンシャル、社外取締役としての役割認識について伺いました。

プロフィール
小林 賢治/Kobayashi Kenji
東京大学大学院修了。コーポレイトディレクションを経て、2009年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、2011年から2015年まで同社取締役を務める。事業部門、コーポレート部門、急成長期、成熟期と、企業の様々なフェーズにおける経営課題に最前線で取り組んだ経験を有する。2017年7月、朝倉祐介、村上誠典と共にシニフィアン株式会社を設立。GPとして総額200億円のグロースファンド「THEFUND」を運営し、SmartHRをはじめ、急成長企業の継続グロースに向けたエンゲージメントに重きを置いた投資を行う。ラクスル株式会社 独立社外取締役、Nstock株式会社エグゼクティブ・アドバイザーも務める。


ユニコーンは、通過点でしかない

村上:よろしくお願いいたします。今日は、小林さんがツクルバの経営へ参画いただいた背景や期待値、ツクルバのようなポストIPOベンチャーの成長性について伺いたいと思います。

まず、シニフィアンの活動などを通して感じる、ポストIPOベンチャーの課題についてお聞かせいただけますか?

小林:日本が長らく次世代の礎となる産業を生み出せていないことが、大きな課題だと感じています。

最近の日本はスタートアップを盛り上げ、ユニコーン企業(企業価値10億ドル以上で、設立10年以内の未上場ベンチャー企業)を生み出そうとがんばっていますよね。ただし、次世代につながる産業をつくるためには、ユニコーンはあくまで通過点でしかありません。

日本が自動車や電化製品の発展以降、次の産業をつくり損ねている間に、アメリカや中国はテック分野で世界の時価総額トップレベルの企業をいくつも生み出しています。その企業規模は、ユニコーンといわれる1,000億円をゆうに超える100兆円規模なんですよね。

この現状をふまえると、日本のポストIPOベンチャーはもっともっと規模を大きくしていかなければならない。ただ、産業界でインパクトを出す規模として、いきなり時価総額100兆円というと目標が高すぎるので、まず1兆円超えを目指すべきだと考えています。

残念ながら、日本でVC(ベンチャーキャピタル)の支援を受けて1兆円規模を持続的に超えている会社は、ほぼ皆無です。ユニコーン企業が増え、ここから1兆円企業が5つほど出てくると、日本経済の雰囲気は変わってくるでしょう。

村上:国内で産業のリーダーになっている企業は最低でも2,000〜3,000億円規模ですから、ユニコーンは世の中から必要とされるための入口に過ぎないと、私も本気で思っています。1,000億円は通過点であるというお話に非常に共感します。


「リスクを正しく取る」ことが苦手な上場企業が多い

村上: IPO後に伸び続ける会社には、どのような要素があると思われますか? 

小林:大きく2つあると思います。「適切な意思決定システム」「健全な野心」です。

「適切な意思決定システム」とは、いわゆるコーポレートガバナンスです。これは、不正を起こさないようにすることはもちろん、正しくリスクを取って継続成長することを指します。正しいリスクとは、一度のチャレンジに失敗したら会社が倒れるほどの高リスクでも、まったくリスクを取らないことでもありません。ステークホルダーの理解を得ながら、自社の身の丈に合ったリスクコントロールをすることで、次の成長が訪れると考えています。

ところが、日本企業を見ていると、上場以降にリスクを正しく取れなくなっている会社が多いと感じます。

村上:なぜ、そのような状況に陥ってしまうのでしょうか?

小林:意思決定の仕組みがどこかで硬直化してしまうのでしょう。この背景には、日本人が集団で意思決定する際の特徴が影響していると考えています。日本は、個々人は優秀であっても、集団になるとその場の“空気”で物事が決まったり、明確な理由なく前例を踏襲してしまったりしがちだと思います。言い換えると、誰も、何もスタンスをとらない。

PTAやマンション理事会など、「集団で何かを決める」場面で顕著にこの傾向は現れますが、残念ながら、上場企業でも起こりがちです。

硬直した“空気”を打破して、正しいリスクを取る経営をするために重要な役割を果たすのが、取締役会における社外取締役だと思います。社内にいない分、“空気”を変えられる可能性をもっているのです。

村上:ツクルバは正しい意思決定システムを守るために、常に多様な社外取締役に参画いただいています。私たちがこれから登ろうとしている数千億円企業の山を先に登っている先輩経営者や、多領域のプロフェッショナルの方々から、ツクルバが正しいリスクを取り続けるために、一石を投じていただいています。

「健全な野心」を抱くには、経済的なリターンが必要

村上:「健全な野心」についてもお聞きしたいです。これは、魔法のようなできごとを無謀に期待することではないと思っています。

ビジネスは、常に愚直に足腰を鍛えている人が試合で勝つような世界だと思うんです。そのうえで、正しいリスクを取っていく。調達したからには投資しなければならない、大きなチャレンジをしなければならないというサバイバルバイアスは危険だと、経営を続けていく中で感じました。

小林:同意です。村上さんの考えこそが、経営の王道だと思います。

「健全な野心」とは、経営陣や従業員が健全に動機づけされていること。そのためにはミッションへの共感に加え、経済的なリターンも必要です。

この30年、日本企業は業績や株価が上がっても給与は増えず、結果として超デフレ国家に陥ってしまいました。僕は、自社が成長することと、経済的な報酬が上がることは必ず正の関係で結びついているべきだと考えています。中でも大きく結びつくのが株式報酬で、会社が継続成長するための重要なエンジンとしての役割を果たすのです。アメリカは会社の成長と株式報酬が深くリンクしていますが、日本はまだ弱いのが実情です。

ベンチャーが上場以降も成長を目指すには、かなりの覚悟が必要です。だからこそ、「健全な野心」を抱くためにも、相応のインセンティブを再設計すべきだと思うんです。上場するとSO(ストックオプション)が一巡するので、その後報酬の再設計がないとモチベーションがなかなか維持しづらくなってしまうんですよね。

村上:インセンティブ設計は優秀な人を集めて成長するために必要だと思うのですが、時価総額300億以下で規模の小さいポストIPO企業が再設計するにあたっては難しい側面があると感じています。

ツクルバは、上場時点と比べ3倍以上のGMV(流通取引総額)と粗利益になり、今期黒字化します。ところが、コロナ禍で業績が伸び悩んだ時期もあったため、注目をされなくなってしまいました。そのため、収益が飛躍しても多くの投資家に発見されておらず、現在の株価と3年前に発行したSOがまだ同水準なので、インセンティブ効果が限定されてしまう状況になってしまっています。

小林:上場企業では珍しくない悩みごとだと思います。上場直後は期待値で株価がつく側面がありますから、その後、実際に成長しても期待値を満たしただけとみなされ、株価が上がらないことが往々にして起こります。

ただ、今のツクルバは実績と株価が釣り合ってきて、今後の展開が楽しみな時期にあると思います。ここからさらに実績を上げると、今度こそ株価が上がっていくでしょう。事業を通じて顧客に付加価値を届け、収益を上げるというオーソドックスな経営をすれば、株価は基本的にポジティブに動く可能性が高いのではないかと私は期待しています

そして、このフェーズは株式報酬を出すのに最適なタイミングなんです。逆に、「PER(株価収益率)1,000倍」のような会社はSOを出してもマルチプルが切り下がって株価が下がるリスクが高いので、出しづらい。着実な成長が見えてきたタイミングは、株式報酬を出すには適していると考えます。

ツクルバがユニコーンになるために必要な要素とは

村上:ポストIPOベンチャーが目指すべき方向性について、明瞭な意見をたくさんいただきありがとうございます。

ここから先は、ツクルバはどのようにして通過点であるユニコーンになれるのかという期待と、そのための課題についてお聞きしたいと思います。本来ユニコーン企業は未上場企業を指すのですが、世の中に不可欠な企業の入り口のメタファーとして、敢えてここは言わせてください(笑)。

小林:まず、「1,000億円」は数字として具体的である一方、どのような企業なのかをイメージできていない人も多いと思います。日本で時価総額1,000億円超の企業というと、僕が以前在籍していたディー・エヌ・エーがありますし、マネーフォワード、ビジョナル、不動産業界でもカチタスやオープンハウスなど何社かありますよね。こうした企業は、いずれも何らかのユニークさをもっているんです。

ツクルバがユニコーンを目指すにあたっては、自社のユニークさを明確にすることと、先ほどの話にもあったように骨太な意思決定力が必要ですね。こうした要素は、1,000億円規模になる前から先回りして準備していかなければなりません。

村上:ポストIPOの段階で悩みを抱えている会社をはじめ、あらゆる経営者が真摯に受け止めるべき話だと思いました。

ツクルバを立て直してきた数年間、実際に数千億円規模の企業を経営されてきた方々から学ぶことが、後を追う企業にとっては有用だと考えてきました。色々な知見をもとに、経営のレベルを引き上げていただくことで経営陣の視野が開けて、さらに前へ進んでいける感覚が持てたんです。

そうして自分自身の成長を起点に経営のレベルアップに取り組んできました。今のお話もまた、ここからさらに成長していくために必要な視点だなと実感しています。

小林:ツクルバは、まだまだ成長できるポテンシャルを秘めていると思います。2021年頃に企業の基礎体力が衰えかけましたが、この1〜2年で飛躍的に筋トレに成功し、会社としての体幹が鍛えられました。外から見ていても、かなりの覚悟をもって改革に取り組んだのだと感じます。これからは、筋トレの成果としての果実を生み出す、つまり黒字幅を上げていくフェーズですね。

ここまで明確にターンアラウンドした会社は、実は少ないと思います。ツクルバのような会社が正しいコーポレートガバナンスやインセンティブ設計をもっていると、さらに健全かつ順調に成長できる。これはポストIPOにとって大きな光になると思っています。

村上:私たちがユニコーンを超え、さらに2,000〜3,000億円企業へと成長することは、社会をより良くすることとイコールだと信じています。そして、上場後の成長にもがくポストIPOベンチャーの希望となって、次世代の経営者が覚悟を決めるための道を作れたらよいなと思っています。

社外取締役の役割は、「良い問い」を投げかけること

村上:最後に、これからツクルバの取締役としてどういう役割を果たしていきたいか、改めてお聞きできますか?

小林:まず、気をつけなければならないと思っていることがひとつ。僕自身に一定の経験があるからこそ、「上から目線」で語らないことです。数千億円企業の取締役も経験すると、スタートアップに対して偉そうに振る舞えてしまう瞬間がある。だから絶対に気をつけないといけない、と肝に銘じています。

日本を代表する数兆円企業の経営者である大先輩とご一緒に仕事をする機会があるのですが、それほどの実績を残しているにもかかわらず、同じ目線で問いかけ、真摯に議論をしてくれるんです。「わしの頃はこうやって経営したんじゃ」というような、悪い意味での「昭和のおじさん」気質がまったくなく、私もいつも彼の問いかけから学びを得ています。

スタートアップで日々奮闘する皆さんに敬意をもち、良い問いを投げかけ、対話をすることでお互いに多くの気づきがもたらされる。これが理想の関係性だと思います。人は、何かを他者に説明するときに解像度が上がることが多いので、そのための「良い問いを発すること」が社外取締役として重要だと思います。

村上:私も小林さんに問いを投げかけられて、ハッとした場面がありました。近視眼的になっているときに視界を広げてくれる問いは大切ですね。

小林:良質な問いによって、企業の戦略が劇的に向上することもあるんです。経営難に陥ったりそな銀行を立て直した細谷英二氏が、会長に着任したばかりのときに、リテールを重視しているにもかかわらず窓口を3時に閉めていることに対し「なぜ3時に閉めるの?」と疑問を投げかけたというエピソードを聞いたことがあります。3時に閉めるのは当時の銀行の「常識」でしたが、なにか明確な根拠があったわけではなく、単なる商習慣だったんですね。その後、細谷氏の問いをきっかけに、りそな銀行では個人のお客様が来店しやすいよう窓口の営業時間を延長しました。

村上:ボードメンバーがリスペクトし合い、この会社がよくなることが社会の発展につながるという思いを背負って、一緒にやっていきたいと考えています。これからも、鋭い問いをたくさんいただければありがたいです。これからもよろしくお願いいたします。

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