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【レポート】わら靴をつくる技術を継承しよう~草履・わらじ・雪靴づくり~

藁(わら)で編み上げた草履や雪ぐつなどの民具。かつてはごくあたりまえだった農閑期の手仕事も、現在ではその技術を持った人は少なくなっています。

遠野市宮守町在住の佐々木俊一さんはその技術を持つ一人で、16歳の頃から、炭焼きの仕事に履いていくため、草履やつまごと呼ばれるわら靴を自分で作っていました。

「つくる大学」では、草履をはじめとする藁(わら)の履き物の作り手を増やしていこうと、俊一さんから技術を継承する連続講座を、2021年にスタートしました。この記事では、2021年度に行われた連続講座の様子をお届けします。

書き手:多田陽香(企画担当者)
1990年生まれ。岩手県遠野市出身。大学時代に文化人類学を専攻しキューバに留学。都内IT企業に勤務後、2018年に遠野にUターン。Next Commons Lab 遠野コーディネーターとして主に移住者の起業家的生き方の支援を行う他、文化継承の場づくりや研修プログラムの企画・運営等を行う。2020年より遠野ふるさと観光ガイド。

2021.5.21 俊一さんとご対面&企画の打合せ

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同郷の先輩からのご紹介で91歳の俊一さんにお会いしました。(しかも家がご近所)御年91歳とは思えないほど元気で、エネルギーに満ち溢れています。

俊一さんがこれまで作ってきたわら靴を見せていただいたのですがどれも丁寧で美しく作られています。

「これまで福島や宮城で講座を開いてきたが、なかなか後継者を育てられなかった。こういう遠野の技術を若い人たちに教えたいんだ」という俊一さんの熱意に、すっかり心打たれました。
そして、俊一さんとお話ししていると、自分が生まれる前の時代の様子が、俊一さんの経験を通していきいきと伝わってくるのも、とてもワクワクしました。

そこで、1日開催のつくり方講座のような形ではなく、最初から技術継承を目的に長期的な連続講座を企画することにしました。

2021.7.2 市内の酪農家さんよりわらを調達

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講座の準備のため、この日はわらを調達してきました!稲わらは、現在では切り刻んで田に撒かれることが増えたため、手に入れることが難しくなっています。が、幸いなことに市内の酪農家さんが快く譲ってくださり、はせ掛け(稲わらを束にして棒にかけ天日干しする乾燥方法)の後に牛舎に置いていたというもちわらを運びました。
もち米のわらの方が、柔らかくて草履づくりにいいとのことで「これはいいわらだ~」と嬉しそうな講師の俊一さん。
近所の方にも運ぶのをご協力いただきました。ありがとうございました。

2021.7.21 水車でわら打ち

縄や履物、祈りの道具などさまざまな用途で使われたわら。使われる前には必ずわら打ち作業が行われます。わらを打つと全体が柔らかくしなやかになり、細工がしやすくなるためです。
講座の準備作業ではわらを水車で打ってきました!使わせていただいたのは、遠野市内にあるたかむろ水光園の水車。施設の方に特別にご協力いただき、使い方を教わりながら挑戦しました。

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わらの束全体を打てるように順々に気をつけながら、わらの束を動かしていきます。昔は指を挟んで粉砕骨折してしまう人もいたんだとか・・・!
水車の動力のおかげで20束近くがあっという間に柔らかくなりました。

2021.7.24 第1回:草履をつくろう

「わら靴をつくる技術を継承しよう~草履・わらじ・雪靴づくり~」の第1回を開催しました。遠野をはじめ、盛岡、花巻、北上、釜石などから技術を習いたい方々が集まりました。

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大工どんの座敷で縁側からの風を受けながら制作。終始和気あいあいとした雰囲気でした。
俊一さんの伝承への熱い情熱はみなさんに伝わったようで、同じようにやっても出来上がりの美しさが全然違う魔法のような手つきに、すっかりファンになったご様子。
草履はさまざまなわら靴の基礎となります。忘れないように頑張りましょう!

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2021.8.7 第2回:草履をつくろう②

「わら靴をつくる技術を継承しよう~草履・わらじ・雪靴づくり~」の第2回を開催しました。

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元々は草鞋(わらじ)をつくる予定の回でしたが、前回なかなか難しくマスターできなかった草履を復習しようと提案いただき、草履づくりに変更!今日は、片方だけでもいいので確実にきれいな草履をを目指し、何度も確認をしながら進めました。参加者同士でも教え合ったり、確認し合ったりする場面があり、俊一さんの弟子仲間感がありました。

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そして、つい先日92歳の誕生日を迎えた俊一さんにサプライズお祝い。もっと長生きさねばな、と俊一さん。引き続きよろしくお願いします!

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今回草履をマスターしみなさん自信がついた顔つきになったような…!

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2021.9.6 第3回:コロナ感染拡大のため自習

2021.10.16 第4回:わら紐で草履づくり&縄ない特訓

「わら靴をつくる技術を継承しよう~草履・わらじ・雪靴づくり~」の第4回を開催しました。

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第3回は県内のコロナ感染拡大のため自習になったので、皆さんと集まれたのも久しぶりでした!
今日は、あらかじめ俊一さんが用意してくれたわらの縄を土台に使って片方のわら草履をつくり、午後は自分で縄をつくれるように縄ない練習。
そしてなんと「わら細工とその周辺」の著者である阿部先生が様子を見にきてくださり、ご指導もいただきました。

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草履はきちんと横幅を確保するのが難しい‥。編んでいくうちに細くなってしまったり尖ったりしてしまいます。でも今日は、全員がきれいな小判型の草履を作れました!
いびつながらも1日かけてようやく作れていた初回に比べ、かなり上達しました!
技術マスターへの道は長いですが、確実に作れるようになってきています。新雪の上をわらの長靴で歩くのを楽しみに引き続き頑張ります!

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2021.11.27 第5回 すんべづくり

「わら靴をつくる技術を継承しよう~草履・わらじ・雪靴づくり~」の第5回を開催しました。
わら草履からステップアップし、足の甲を覆うスリッパ型のわら履物「すんべ」づくりに挑戦!

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ベースとなる草履づくりを覚えた皆さんも、新たに学ぶ編み方に混乱&奮闘!講師の俊一さんの魔の一言「はじめからやり直した方がいいね」に恐れおののきつつ、笑い合い教え合い、今日も和気あいあいと作りました。

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「これでいいのかな」と不安を持って進んでも、徐々に編み込みが形になって見えてくると嬉しいもの。1回目はいびつでもまずは作り方を覚えて、2回目からきれいに仕上げるコツを意識して作ると一気に上達していきます。

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2022.1.22 雪ぐつをつくって履こう

今年度の締めくくり!「わら靴をつくる技術を継承しよう~草履・わらじ・雪靴づくり~」の第6回を開催しました。
雪の上をわらの長靴で歩くのを楽しみに始まった連続講座も最終回。ふるさと村の積雪は申し分ない上に、最高の晴天が広がりました。

雪靴は師匠でも2日かかる大作。講師であり師匠の俊一さんが、過去に作ったデザインのものや作って時間が経ってしまったものを持ってきてくださり、皆で履いてみました!

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その履き心地は、包まれるようで意外と温かく、足の裏も気もち良い!雪の上の足跡が小判型で可愛らしいです。皆童心に還って、ふるさと村にある昔のソリで遊んだりしました。

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暖かったこの日は、そのまま縁側でそれぞれ作成途中の履物を俊一さんに習ったり、お話ししながら作業を進めたりしたのですが、ふるさと村の小正月の飾りと相まって、昔にタイムスリップしたような風景が広がっていました。

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ちなみに、師匠の作った雪靴10足はふるさと村に寄付されました。ふるさと村にいらした際は村民になった気分でぜひ履いてみてください!この日「どべっこ祭り」に参加したお客さんが早速履いて楽しんでくれていました。

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参加者の声

毎回、いろいろな学びがあり、楽しい会でした。さまざま参加者の方々とのお話も大変楽しかったです。講師の俊一さんの藁作りの情熱にも頭が下がります。藁を使う物作りの奥深さが、この先も続けていきたいと思わせてくれます。
実際に昔の話を聞きながら、曲がり家で作業できたことが良かったです。
遠野ふるさと村で季節季節の風を感じながら受講できたのは、大変ありがたかった。ただ単に藁細工の技術を学ぶ以上に人と人が集い、語らいながら作業する楽しさも、参加者の皆さんのおかげで感じた。
草履〜雪靴の技術を教えていただくことの楽しさはもちろん、手を動かしながら聞く俊一さんの子ども時代のお話や、お人柄に魅せられました。このプログラムから、また俊一さんから、藁を使った素晴らしい技術を体験としてではなく、継承としての伝えるという姿勢を強く感じています。
地域に技術を持った人がいる、と言う話は聞いても、一からそこに飛び込んで教えてもらうと言うのは、個人的にはやはりハードルの高さがあり、このような機会を設けていただいたことに感謝です。
予定通りにはいかなかったけど、確実に覚えられるよう臨機応変に対応して頂いてありがたいです。
講師の先生の教え方が非常にわかりやすく、最初は上手く出来るかどうか不安でしたが、始まってしまえばノープロブレムd(^-^)
不器用な私でも何とか形にすることが出来ました。
また、会場が遠野ふるさと村に移築された築100年以上の本物の茅葺き屋根の曲屋だったので、技術の伝承にとどまらず、参加者が臨場感を感じることが出来る素晴らしい講習会だったと思います。

まとめとこれから

7月から技術を習い始めて半年になりますが、作り方を忘れてしまったり、きれいにできなかったりと、始めてみてわかる技術の高さや難しさがありました。まだまだ師匠のようにはいきませんが、私も参加者の皆さんも、続けることで着実に技術が定着しつつあるように感じます。技術継承というにはまだまだですが、集まって作業しながら、参加者同士で自然や文化、暮らしの話をおしゃべりするのも、楽しみの一つになりました。これからも楽しみながら大事な地域の技術を受け継いでいく場をつくっていきたいと思います。
わらは市内の農家さんからお譲りいただきました。また、水車でのわら打ち、会場の準備にはふるさと村の皆さんにご協力いただいております。いつもありがとうございます!

活動への参加にご興味のある方はこちらもご覧ください。4月から連続講座がスタートします!

俊一さんのわら靴はこちらからご購入いただけます。代金の一部が技術継承活動に充てられます。

俊一さんのわら靴、遠野ふるさと村でも販売しております!

問い合わせ先:つくる大学事務局(Next Commons Lab遠野)
  予約・お問合せフォーム
  メール :tsukuru-univ@nextcommons.co.jp
   電 話 :0198-68-3544 / 050-3647-4052
   住 所 :岩手県遠野市中央通り5-32

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