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「キャッシュレス」に思うこと

実は僕は去年(2020年)の3月以来、「現金」というものを一切使っていない。

僕はアメリカのロサンゼルスに住んでいる。ロサンゼルスは、去年の3月以来、実質上「ロックダウン」したままだ。僕はつい最近(2021年1月31日)に20年勤めた会社が廃業になるまでは会社に「出勤」していたけれども、ほとんどの「オフィス・ワーカー」は3月以来、いわゆる「リモート・ワーク」で在宅勤務をしているんじゃないかと思う。

まあ、それはそれとして、「現金」についてだ。

ロックダウンが始まったころから、「現金」がコロナウイルスの感染媒体のひとつになっているということがささやかれ始めた。まあ手で触るものだから感染媒体として機能するのはまったく不思議ではない。ということで、僕は「気をつけるにこしたことはない」ということで、現金を使うのを一切やめた。

日本では多少事情が違うだろうが、デビットカードが普及しているアメリカでは、「現金なし」で暮らすのはそんなに難しいことじゃない。一週間に一ぺん訪れて買い物をしている最寄りのスーパー・チェーン『トレーダー・ジョーズ』でももっぱらデビット・カードで買い物をしているし、「インスタカート」のようなデリバリー・サービスを使うときにはクレジットカードだし、おまけにうちのアパートでは共有スペースの洗濯機と乾燥機もアプリで支払いができるようになっている。

・・・ということで、僕は昨年の3月以来、一切現金を持ち歩かなくなった。

世の中は変わるものだ、と最近僕はつくづく思う。アメリカは「クレジットカード」大国だから、「キャッシュレス社会」への道のりはさほど遠くないのじゃないかと日本の人は思っていたかもしれない。けれども、アメリカに30年住んでいる僕にとっては、ほんの1年半ほど前までは、アメリカが「キャッシュレス」になるなんてちょっと信じがたいことだった。スウェーデンが2023年3月までに「キャッシュレス」になると聞いて、「ありえないな」とぼんやり思っていたものだ。

1999年にペイパルの共同創設者であり当時のCEOだったピーター・ティールは(彼はブリリアントな起業家&投資家で、彼の著書『ゼロ・トゥ・ワン』は経営者や今後起業したい人にとっては必読書だと思うけれども、彼が熱心なトランプ支持者と知った数年前から彼に対する僕の熱は冷めている、個人的には)「現金は時代遅れの技術であり、支払いの手段としては不便なこと極まりない」と言ったという。当時はほとんどの人が「こいつは何を言ってるんだ!?」と思ったとは思うけれど、「先見の明がある」とはそういうことを言うのだ。

でもコロナは僕たちの「ノン・ペーパー・マネー=姿なき通貨」に対する抵抗を打ち崩した。ニューヨーク大学のマーケティング学教授スコット・ギャロウェイ氏は「コロナはそれまで緩やかに起こっていた変化を加速化させた」と言ったけれども、コロナのおかげで「キャッシュレス」が普通になってしまった、あるいは「もっと、より『キャッシュレス』な生活」を送れることを待ち望んでいる人も多いだろう。

例えばデビット・カードのトランザクションでも、それを決済処理するマシーンに手を触れなくてはならない。いっそのこと、それにさえ「手を触れなくてよければいいのにな」と思ってしまうのだ。

「コンタクトレス(非接触)」ということが、アメリカのリテールではキーワードになっている。これはコロナに始まったことではない。だが、コロナがそれを加速化させた。

思えば、前職の時にワシントン州シアトルまではるばる赴いて実体験したアマゾンのキャッシュレス・コンビニ、「アマゾン・ゴー」。あれはあれでとてもエキサイティングだった。アマゾン・ゴー・アプリを自分のスマホにダウンロードして、クレジットカードを登録しておく。店の入り口の「ゲート」を通るときに、そのアプリに表示されるバーコードをスキャンすると、僕が来店しているということが認識されて、僕が店内で手に取ったものや最終的に袋に入れたものが認識される。最後にもう一度、今度は「出口」のゲートを通るわけだが、その際にすべてが計上され、登録しておいたカードから引き落とされるという仕組みだ。

だが、その時、とんでもないことが起こった。アマゾン・ゴーには当時のボスと同僚の三人で行ったのだが、店内で購入したものを店舗に併設されている「イート・イン」コーナーで食べている最中にメールで届いた僕のレシートを確認していたら、僕が「買ったはずの」ものがそこにはついていなかったのだ。

天下のアマゾンのシステムにも落ち度があるのだな、僕は、図らずしてまんまと「食い逃げ」を完遂し得るのかと思いきや、ふと思って念のため同僚のレシートをチェックしてみたら、なんとそこには僕が購入したはずのものがついていた。

いうまでもないことだが、同僚と僕は各々のスマホにアプリをダウンロードし、各自買い物をした。だけど、店内にいたときはほとんど初めから終わりまで隣り合わせで買い物をしていたので、もしかしたら、アマゾン・ゴー店内のカメラが「見間違えて」僕が購入した商品を彼女のものとして決済してしまったのかもしれない。

僕らが知人だったし、その時のランチ代は会社もちだったので(つまり、僕はいずれにせよ後日会社に払い戻しを申請する予定だったので)、僕の個人的なケースについては問題にはならなかったが、これが僕らが赤の他人で、たまたま隣り合わせで買い物をしているだけだったら?同じようなミスが起こりうるのだろうか???と考えると、「Just Walk Out Technology(ジャスト・ウォーク・アウト・テクノロジー:アマゾン・ゴーのレジ不要テクノロジーの名称)」もまだまだだな・・・と思わざるを得ない。

ただし、僕がシアトルのアマゾン・ゴーを訪れたのは、それが一般公開になって間もない2018年の2月のことだったので、それからはや3年がたった今、非接触のテクノロジーはもうずっと進歩していると思う。

少なくとも、スマホにアプリをダウンロードして、自分で商品のバーコードをスキャンして、アプリに登録してあるクレジットカードで決済をして、レジの列に並ばずに店を後にする・・・なんていうことが一般化してくれればいいのにな、と思わないでもない。(ちなみにこれはもうすでにアメリカの一部のスーパーで実装されている。僕が個人的にこれらのスーパーに行かないだけで。)

とはいえ、リアル店舗のスーパーの中では僕が唯一ひいきにしているトレーダー・ジョーズは、なんといまだにネット・ショッピングにも対応しないという「ヒューマン・タッチ」なブランドをほんとうに大事にしているお店なのだ。レジもただの決済の場所ではなくて、すっかり「顔見知り」から「友人」となった店員さんたちとあれやこれやとダベるのが楽しみだったりもするのだ。だから彼らのような店舗にもぜひ生き残ってほしいし、必ず生き残ると確信してもいる。

僕のような生活者がいる限りは(そして僕思うに主流になっていく限りは)、「テクノロジーの便利さ」と「人のあたたかみ」をうまく組み合わせたビジネスか、あるいはその両極端を徹底的に極めたビジネスが今後は市場を凌駕するのではないか。

こんなふうにして、2021年アメリカのビジネスについて僕が思うことをざっくばらんにつづっていきますので皆さん今後とも末永くお付き合いください。内容的には今日はウォームアップなので、今後だんだんと濃くなっていくとは思いますが。まあ、日によってまちまちです。どうぞヨロシク。


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