2度目の政権投げ出し レガシーはデジタル手続法があるじゃないか

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8月28日 TBS「Nスタ」から

▶8月28日、安倍首相が突然の辞任を表明した。かねてからの持病である潰瘍性大腸炎が再発し、「国民の負託に自信をもって応えられる体調にない」のが理由という。2007年9月、参院選敗北後の臨時国会で同じく体調を理由に辞職を表明、今回が2度目となる。諺と違って3度目はないにしても、テレビ/新聞は面白おかしく自民党総裁ダービーを囃し立てるより、国民の負託なき人物が「国民の負託」と宣うことに矛盾を感じない不思議な仕掛けを論じてもらいたいものではある。

▶ともあれ安倍首相の記者会見は、前法相・河合克行衆院議員と河合案里参院議員が公選法違反(買収)容疑で逮捕された6月18日以来およそ2か月半ぶり。説明によると8月に入って体調が悪化し、東京・信濃町の慶応大学病院で受けた2回目の検診の結果を見て、退任を決意したという。安倍氏は6月13日に年1回の定期検査を受けている。筆者の体験から言うと、そのときCT/MRIで持病の悪化ないし変異が判明していたはずだから、第201回通常国会の閉会(6月18日)から退陣の準備は密かに進められていたと見ていい。今回、新型コロナウイルス感染症対策に追加されたワクチンの確保や検査体制の拡充、感染症法上の扱い見直しなどは、この日のために用意された言い訳に見えてしまう。

▶どうせ出来レースの茶番劇なのだから記者たちの質問のレベルを云々しても始まらない。せいぜい女性フリーランスが「世界最高水準の電子国家を目指すといいながら、新型コロナがIT利活用の遅滞と後進性をあぶり出した」と指摘、首相の感想を求めたのがユニークといえる程度。首相会見でITが取り上げられたのは森政権の「イット革命」以来の珍事ではなかったか。その答えに注目(注耳?)したのだが、「府省、地方公共団体のシステムがバラバラなのが原因」と、全くの見当外れとは言わないにしても、本質を理解していないことを露呈してしまった。

▶他の記者が「レガシーは何か」と問うのは、首相の口から「何もありませんね」の言質を引き出そうという魂胆がミエミエ。アベノミクス3本の矢は消費税率アップのための見せかけで、「実は2018年10月に景気後退に入っていました」が政府の正式見解だ。投下した予算の成果も検証しないまま、やれ未来チャレンジだ地域創生だ働き方改革だ一億総活躍社会だと年が改まるごとに目先を変え、挙句、残るのは天下の愚策アベノマスクのみということになる。持病を理由に政権を2度も放り投げた首相として記憶に残るのだろうか。

▶いや、その言い方は人としていかがなものか、憲政史上最長記録を作ったのだから「お疲れさま」の一言あって然るべきだろう——という向きもあろうけれど、それは安倍晋三という個人に対してなので、身内友人はそのように振舞えばよろしい。60兆円もばら撒いた外交も成果なし、トランプやプーチンには相手にされず、北朝鮮に乗り込んで行くこともできなかった。むろん「安倍さんじゃなかったらもっとひどかった」という言い方もできる。とはいえ政治は結果だし歴史が評価するのだから、後継首相には、忖度の積み重ねで改竄・捏造された公文書を元に復す責務がある。そうやって消去法で消し込んだうえでITの視点で眺めると、たった1つだけ、レガシーが見つかった。官僚が踏ん張ってやっとの思いで通した「デジタル手続法」があるじゃないか。

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