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『ボクはやっと認知症のことがわかった』(長谷川和夫/猪熊律子・著)

 昨年11月に亡くなられた認知症診療の第一人者である精神科医 長谷川和夫氏の『ボクはやっと認知症のことがわかった 自らも認知症になった専門医が、日本人に伝えたい遺言』(KADOKAWA・刊)です。
 自らも認知症になったことを公表していた著者が,その人生を語っています。その語りに,読売新聞編集委員の猪熊氏が補足・解説をして,その背景や伸展が分かりやすくなっています。

 2017年、「長谷川式スケール」開発者である認知症の権威、長谷川和夫さんは自らが認知症であることを公表しました。その選択をされたのはなぜでしょう? 研究者として接してきた「認知症」と、実際にご自身がなってわかった「認知症」とのギャップは、どこにあったのでしょうか? 
 予防策、歴史的な変遷、超高齢化社会を迎える日本で医療が果たすべき役割までを網羅した、「認知症の生き字引」がどうしても日本人に遺していきたかった書。認知症のすべてが、ここにあります。

 “ボケ”を世間が広く話題にしたのは,1971(昭和47)年に出版された『恍惚の人』(有吉佐和子・著)でした。
 話題になりましたが,ボケ,もうろく,痴呆,アルツハイマー症など呼び方が変わっても,恥ずかしいこと,隠したいことという意識は大きく変わらず,「理解が進んだ」とは言えなかったようです。
 その呼称は,2004年に「認知症」を標準語とされ,現在に至っています。

 著者は,認知症の簡易的な認知機能テスト「長谷川式スケール」の開発者であり,日本の第一人者です。専門医であっても認知症になり,それを公表しました。その後は「専門医から伝えること…」に加え,「認知症になったから言えること…」を,講演や活動を通して多くの人に伝えてきたそうです。

  やはりいちばんの望みは,認知症についての正しい知識をみなさんにもっていただくことです。何もわからないと決めつけて置き去りにしないで。本人抜きに物事を決めないで。時間のかかることを理解して,暮らしの支えになってほしい。


 加齢とともに「もし認知症になったら…」と誰もが心配になります。その漠然とした不安も,本書で著者の人生,認知症のことを知ることで,“準備”ができ,和らぐでしょう。

 すべてのみなさんにお薦めの一冊です。

 読書メモより

○ 「ほかの誰かじゃなくて,なぜ自分がならなくちゃいけなかったのですか」というストレートな質問です。
○ 「あなたは認知症ではなく,MCI と思われます」。(略) 最近,MCI(軽度認知障害)という言葉を聞く機会も増えました。
○ いちばん大きな危険因子は加齢ですが,人間だれしも,年をとるのを避けることはできません。そうだとすると,認知症の予防は「一生ならない」ことよりも,いかに「なる時間を遅らせられるか」が重要になります。
○ だから「今日は何をなさりたいですか」という聞き方をしてほしい。
○ 「パーソン・センタード・ケア」の重要性は少しも変わっていないと感じます。/「一人ひとりが違う」「一人ひとりが尊い」「その人中心のケアを行う」(略) 認知症の人と接するときに,この言葉を忘れずにいていただけたらと思います。
○ ボクがつくった絵本『だいじょうぶだよ―ぼくのおばあちゃん』(ぱーそん書房)は,2028年10月に無事完成し,出版されました。
○ 音楽も絵もそうだけれど,美しいものに触れると心が刺激され,癒され,満たされます。認知症が進んでも,嬉しい,悲しいといった喜怒哀楽の感情は最後まで残るといわれます。
○ 最近,以前より元気になった気がしています。認知症になって失ったものも,もちろんあるけれど,世界が広がりました。(略) いま,こころがけれいるのは,明日やれることは今日手をつけるということです。


   目次

はじめに
第1章 認知症になったボク
第2章 認知症とは何か
第3章 認知症になってわかったこと
第4章 「長谷川式スケール」開発秘話
第5章 認知症の歴史
第6章 社会は、医療は何ができるか
第7章 日本人に伝えたい遺言
おわりに
解説
年表

【関連】
  ◇長谷川式認知症スケール(認知症ねっと)
  ◇長谷川式スケール(HDS-R)(認知症フォーラムドットコム)
  ◇第1回「痴呆」に替わる用語に関する検討会資料(2004/06/21 厚生労働省)

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