すべクリ003

【003】監督にとっての「良い演技」「いい役者」って何なの?

あっちの現場では褒められたのに、こっちの現場では怒られた (泣) レッスンで教わった通りにやったのに、ワークショップでは違うと言われた。

どいつもこいつも、イヴァナ・チャバック (= 世界的カリスマ演技コーチ) と言ってることが違う!

「もう、何がいい演技なのか、分からないっ!」

なんて声を、修行中の役者さんから、しばしば聞きます。でも、監督にとっての「良い演技」ってこれだけなんですよ。

自分のオーダーに応えて、予想を超えた演技

今日は、「だから・・それってどうすりゃいいの?」 っていうお話。

① 脚本を読み解いてプランを持って行く


とにもかくにも、脚本読解ができなきゃ始まらない。台詞だけ覚えて現場に入るなんて論外です。

脚本へのアプローチ を書き始めると、一記事では収まらないので、少なくとも、この3つの問いには答えられるようにして下さい。

Q1   この物語で、あなたが果たすべき役割は?
(ex.  物語のゴールを妨げる「障害」)

Q2  主人公(相手役)にとって、あなたはどんな存在?/ お客さんにとって、あなたはどんな存在?
(ex.  幼馴染の親友、だけどライバル)
(ex.  敵だけど憎めない)

Q3  物語のキーとなる、あなたの台詞(行動) は?
(ex.「あなたを友達だと思ったことはないわ」)
(ex.  去っていく主人公を見送る目線)

いくら演技の「技術」を磨いても「物語のオーダー」を外していたら、絶対に「良い演技」にはなりませんし、次の項目でお話する「監督のオーダー」を瞬時に理解することも出来ません。

脚本読解は、料理で言うところの「出汁を取る」ぐらい重要なベース。どれだけキレイに盛り付けしようと、出汁がマズけりゃマズい。お湯に味噌を入れただけで「味噌汁」にはなりません (笑)

脚本を読み解いた上で、
自分なりの演技プランを持って行く。

これが、第1ステップです。

② オーダーを読み解いて柔軟にプランを変える


現場における、監督にとっての
「最大の思案ポイント」は、

自分の演出プランと、役者の演技プランが違う

時なんですよね。

当然、監督は「物語の全体設計」を誰よりも考え、演出プランを練ってきます。が、リハーサルやテストで役者が持ってきた演技を見て、

 「なるほど、それもアリだなぁぁ~!!」

どうする?そっちに乗るか?こっちに引き戻すか?いや・・みたいな葛藤が起こることがあります。嬉しい悲鳴 です。

その時、何が起きているか?と言うと。

全体プランを誰よりも考えてきた監督
×
役のプランを誰よりも考えてきた役者

1人の脳ミソを超えられる可能性
→  予想を超えた作品になるかも!

が生まれているのです。もちろん、それをジャッジするのは監督の仕事ですが、「嬉しい悲鳴」状態に持って行けるかどうかは、役者がどれだけ ①を突き詰めてきたか?次第です。

ただし、
  脚本を読み解き、考え抜いた演技プラン

が、そのまま正解なわけではありません。仮に、監督があなたの演技プランに乗ってくれたとしても、全体プランの中で、修正・変更 を求められます。あなたの演技プランから、新たな演出プランを思いつく場合もあります。

ただ、残念ながら、日本の多くの制作現場では、心ゆくまでディスカッションをする時間がありません。非常に簡略化された言葉で修正オーダーを受けることも多々あります。

例えば、あなたは「涙を流す」という演技プランを持ってきたとして、監督から「泣かないで欲しい」というオーダーを受けた時の可能性は2つ。

・ あなたの脚本読解が、実は間違っている
 (ex. 物語全体の悲しみのピークはここではない)
 (ex. この後、主人公が泣く。そっちが弱まる)

・ 脚本読解は正しいが、表現のベクトルが違う
(ex. 悲しみだけど・・泣く悲しみじゃない)
(ex. 堪えることで、より深い悲しみを表現したい)

演技プランを練る時に、ちゃんと脚本を読み解いていれば、大概 オーダーの意図 が分かります。

オーダーを読み解かないで、言われたことだけやってしまうと、出汁の入っていない「味噌入りのお湯」芝居 になってしまいます。


事前に脚本を読み解いておくことで、監督のオーダーを読み解ける ようになり、意図を正しく汲み取った演技プランの変更 が出来るようになる。

これが、第2ステップです。

③ ナチュラルからデフォルメのゲージを


でも、脚本をちゃんと読み解いて、オーダーも理解しているつもりなのに「違う」と言われてしまうこともあるじゃないですか?

一体何が違うのか?!?? 恐らく、監督が求めている「テイスト」と違うんですよ。

「その監督とは好みが合わない」と言ってしまえばそれまでですが、演技の振れ幅=ゲージ を持てば、解決することも多くあります。

役者が持っておくべきゲージはいくつかあるのですが、今回は ナチュラル ← → デフォルメ のパラメーター をご紹介。

ナチュラル演技 は、冒頭で少し触れた、イヴァナ・チャバックなどを初めとする、 極力演技を感じさせない 自然体な演技 ですよね。

一方、デフォルメ演技 は、究極的にはチャップリンを想像して下さい。現実世界では「そんな奴いねーよww」というキャラクターが、物語の中では生き生きと存在している。

「嘘くさいキャラクター芝居はしたくない」という硬派な方もいるかもしれませんが、「嘘くさい芝居」と「デフォルメ演技」は違います

あくまでベースとなるのは ナチュラル演技。そこから、どれだけ デフォルメの幅 を持てるか?が、どれだけ「物語のテイスト」にマッチできるか?に直結します。

大きな傾向として、舞台俳優はデフォルメ映像俳優はナチュラル が得意だったりしますよね。

映像では、目線の動きだけで伝わる 感情の機微 も、舞台では、最後列のお客さんまで伝わるように 増幅(=デフォルメ) しなければいけないので。

昨今、映像も演劇も、様々な分野からの混成チームなことが多いので、ナチュラル← →デフォルメ のゲージを意識しておかないと、作品の中で 自分の演技だけ浮いてしまう = 下手に見えてしまう、こともあります。

声優さん、2.5次元俳優などは、デフォルメの極致なお芝居が染みついてしまって、リアルドラマに溶け込めないことも多いですよね。

①  脚本を読み解いて、演技プランを持ってくる
②  オーダーを読み解いて、プランを修正できる
③  演技テイストのゲージ(=振れ幅) がある

役者が、監督にとっての「いい役者」の必須条件じゃないかな?と僕は思います。・・とは言え

演出プランは1ミリも変えたくない。「俺の言う通りにやれ!」という監督も実在するので、そんな現場では、この記事のことは忘れて下さい (笑)

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