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映画『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』大人あるある満載の共感ストーリー

ノア・バームバック監督作品です。その中でも、この作品は距離感なく共感できるものでした。家族の確執をユーモアを交えて描いています。

ウェブ配信の作品としては初めてカンヌ国際映画祭に出品され、アダム・サンドラーの演技は称賛されたものの大きな波紋を呼びました。監督・脚本ノア・バームバック。2017年製作。Netflix映画。

ニューヨークに住む年老いた父ハロルド(ダスティン・ホフマン)を訪ねるため集まった三人の兄妹ダニー(アダム・サンドラー)、マシュー(ベン・スティラー)、ジーン(エリザベス・マーヴェル)。長年にわたって、わだかまりを抱え続けている彼らは、芸術家である父に振り回されるのですが、父が病に倒れてしまい兄妹の関係にも変化が訪れます。

まず、映画の冒頭部分から楽しくて。ダニーは娘のイライザ(グレイス・ヴァン・パタン)と路上駐車に苦闘しています。車中にはHEAD TO TOEが流れて、二人は懐かしく楽しんでいるのですが、なかなか駐車スペースは確保できません。ダニーのイライラが高まり思いっきり下品に叫ぶ表情。アダム・サンドラーの叫ぶシーン何回かありましたが、どれも一級のキレ方でした。

ダスティン・ホフマン演じるハロルドは4回結婚しており、三兄妹のなかでは、マシューは母親が異なります。マシューの母親とも離婚して、今は4度目の妻(エマ・トンプソン)と暮らしています。

ハロルドは自分の結婚生活で子供たちを振り回してしまいましたが、現在も自分にしか関心がない人です。笑ってしまうくらい自己中心的です。

三兄妹もすっかり大人になり、いまでは色々思う所はあっても、父親と平和に過ごせるよう努力しています。

一番年長のダニーは音楽を仕事にしていた頃もありましたが、娘のイライザが生まれてからは長年専業主夫でした。離婚することになり、仕事も見つけなければなりません。

ダニーは結構大変な立場に置かれています。仕事をしていない彼は何か人生をあきらめた様な気配をただよわせています。

ただ、娘との仲は良く、昔二人で作った曲を、肩を寄せ合ってピアノを連弾する姿は暖かいものがありました。

娘イライザとの関係がとても良好なだけに、大学に進学して離れてゆくことのダメージも大きく、身体の内側からひしひしと湧き出る孤独感が痛いほど表現されていました。もちろん決して寂しいなんて言わないのですが。

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父ハロルドが倒れ、大変不安定な状態になったため、三兄妹は共に過ごす時間も長くなって行きます。

ハロルドを見舞いに来た老人が、ジーンが子供だった時に性的虐待をした人物だと知らされたダニーとマシューは復讐しようと考えます。老人の自動車をボコボコにするのです。自動車を破壊して、なんとも充実した楽しそうな中年二人。ジーンは全く喜びませんでしたが。

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ハロルドは入院中ですが、大学にて回顧展が開かれます。そこでダニーとマシューは殴り合いのケンカになります。ダニーは子供時代、父親が結婚を繰り返すことで「ほっとかれた」時期があり、

ミルクシェイクのために
ガラスの破片の道を裸足で歩くような
そんな毎日だった

と訴えます。ひどい扱いを受けてきたので父親を憎む権利がある。それでも自分が父親を世話することになるだろうと。

いかにも人を殴り慣れていない二人が、芝生の上でケンカしたあと、マシューは鼻血を出してシャツもよれよれのまま回顧展でスピーチをします。ベン・スティラーがシリアスだけどちょっと笑える感じで熱演しています。

後日ダニーはマシューに気持を淡々と語ります。

父さんが何か一つでも
絶対に許せないことをしていたら
(憎めたのに)
でも、そうじゃない

父ハロルドは危機を脱して、自宅に戻ります。面倒を見ようと訪れたダニーの話は聞こうともせず、弱っていても、わがままなダスティン・ホフマンがそこにいました。

***

父ハロルドの病気以外の事件は起こらずに、日々の出来事を綴っただけの物語です。登場人物の誰のことも非難したりしません。

ひとつひとつのエピソードの積み重ねで映画ができていて、それぞれがくすっと笑えたり、共感したりで映画は進みます。

ケンカをした後、分かち合ってハグするシーンなどもありません。なんとなく時間がたって仲直りしてるかな、くらいで。

退屈な作品にならないのは、まぎれもなくそのエピソードたちが人間臭く興味深いものばかりだからだと思います。

父親の大病、母親の異なる兄弟の確執、孤独、と気が重くなるテーマですが、ユーモアがあって人に優しく、観た後の気分はさっぱりした暖かなものでした。







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