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ショートショート。のようなもの#36『影じいちゃんと影ばあちゃん』

「ねぇ母ちゃん。ぼくのじいちゃんとばあちゃんは何でこんなに黒いの?」
「それはね。お友だちのおじいちゃんやおばあちゃんと違って、うちのおじいちゃんとおばあちゃんは、影で出来ているからよ」
「影?…影って、あの影?」
「そう、お日さまに照らされてできる、あの影よ」
「へぇ~、そうか。だから、夕暮れ時になったらこうしてこの河川敷に出てきてくれたんだ」
「見てごらん。二人で仲良く並んで、三角座りをしながら川を眺めてる形だね」
「すごーい。…母ちゃん!見て!さっき来たときよりじいちゃんもばあちゃんも細長くなってきてる」
「日が沈みかけてるからね」
「ぼく、ずーーーっとここでじいちゃんとばあちゃんと一緒にいてもいい?」
「ダメよ。母ちゃんも夕飯の支度をしないといけないんだから。ほら、今お買い物してきたお魚が腐っちゃう。また、来年のお盆になったら会えるんだから、それまでの我慢」
「いやだよ!一年に一度しか会えないのに!もう少しだけ!いいだろー!?…ほら見て、すごく細長~くなってきたよ」
「もう、一旦、さよならの時間だね。西のお空も真っ赤になってきた。さぁ、夜になるから帰ろう」
「やだ!やだ!やだ!…また来年まで、一年間も会えないなんてやだ!やだ!やだ!……あ、あ!ダメだ!…じいちゃんとばあちゃんが消えちゃう!…いなくなっちゃう!…あー!やだよ!やだよ!…。いなくなっちゃった。夜になったから、消えちゃったんだ。…ねぇ、母ちゃーん!じいちゃんとばあちゃんが消えちゃったよー!じいちゃんとばあちゃんはどこへ行っちゃったんだよ!?」
「泣かないの。安心しな、おじいちゃんとおばあちゃんは、どこへも行ってやしないから」
「でも、見えなくなっちゃったじゃないか!」
「ちゃんと、見えてるよ」
「どこにさ!?」
「お空を見てごらん。夜っていう、大きな大きな影になってじいちゃんとばあちゃんは、みんなを包み込んでくれてるんだよ」


                ~Fin~

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