ショートショート。のようなもの#42『ゑ』
医師「どうされましたか?」
ゑ「ちょっと先生に、相談がありまして…」
医師「ご相談?整形外科医の私ができることであれば、何なりと」
ゑ「単刀直入に言いますが、私の〝下のやつ〟切ってほしいなぁと思いまして…」
医師「はい?〝下のやつ〟?」
ゑ「はい!私の下に〝m〟みたいなやつが引っ付いてるじゃないですかー?」
医師「〝m〟みたいなやつ?…あー!これですか!?確かに引っ付いてますね~〝る〟の下に〝m〟みたいなやつ。それで、何故これを切りたいと思われてるのですか?」
ゑ「使ってもらえないからですよ、文字として。昔は〝ゑ〟として仕事も多くて活躍してたんですけど、ここ何十年も、ほぼ仕事がなくて生活していけないんですよ。だから、〝m〟を切ってもらって、〝る〟として生きていこうかと」
医師「なるほど。それでうちの整形外科へお越しになられたんですね。 もちろん、お切りすることは可能ですが、〝る〟になられたとしても、少々小柄な〝る〟になりますけどその辺りはご承知頂けますか?」
ゑ「はい。覚悟はしております」
医師「わかりました。それでは患者様のご希望とあらば、切断手術を致しましょう。ご安心ください、私は過去にも同じようなお悩みをお持ちの〝ゐ〟様の左輪っかを縫い合わせて〝る〟になっていただく手術を成功させた実績を持っておりますので」
ゑ「そうなんですね!それは頼もしいです!それでは今すぐにでも、よろしくお願い致します!1日でも早く〝る〟としてバリバリ仕事して家庭を支えていかないといけないんです!」
医師「かしこまりました。但し、ご理解はされてると思いますが、一度切断してしまうと、もう二度と元には戻らないですよ。…大丈夫なんですね?…はい。それでは早速、手術室のほうへ……」
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医師「…患者様、申し訳ございません。無事に切断手術は済んだのですが、私共の確認不足でもありましたし、ご自身でも勘違いをなさっていたようですね…。残念ですが、患者様が今後、〝る〟としてお仕事することは不可能かと…」
m「…そう、ですよね~。だって〝る〟のほうはピクリとも動きませんもんね…。まさか、私の本体が〝m〟のほうだったなんて」
医師「ねぇ・・・。(えらいことになった。明日は、人間の〝イボ〟をレーザーで除去する手術が入っているぞ。まさか、あの患者様も本体が〝イボ〟ってことは…)」
~Fin~