見出し画像

モントリオール

バンクーバーから引っ越してきたのは、カナダ東海岸のモントリオールだった。

モントリオールも、バンクーバーとは違う点で、とても美しく、魅力的な町だった。

しかし住みやすさとなると、バンクーバーに比べて、日本人にとっては格段にハードルが上がる。

最大の理由としては、極限に英語が通じると言っても、
ケベック州にあるモントリオールは、フランス語圏の町なのだ。

ホームページや公文書など、たいていは英文も併記されていたけど、
込み入った説明などは、フランス語でしか書かれてないこともあって、お手上げだったのを覚えている。
(当時はGoogle翻訳など、まだなかった)

そしてバンクーバーにあれほどいたアジア人、アジアのものがモントリオールではほとんど見当たらなかった。

街並みはヨーロッパ風、というかフランス風で、「外国に住んでます」感はめちゃくちゃ味わえたのはよかった。

太平洋沿いの山と海に囲まれたバンクーバーと違って、モントリオールは内陸の町だったから、毎日見慣れていた海と山が見れなくなったのは、寂しかった。

ほどなく、一緒にカナダ東海岸に越してきた友達2人は、モントリオールでなく、トロントへ引っ越していった。

私だけ、モントリオールに残ることになったのだ。

誰一人知らぬ町で一人になって、生まれて初めてホームシックにかかってしまった。

これには自分でも意外だったのをおぼえている。

私は一人でいることの耐性はものすごく高い人間だし、
旅でいつでも見知らぬ土地を訪れることを、この上なく楽しんでいた。

ずっと外国に住んでみたかったし、昔からアジアよりはヨーロッパ方面に惹かれる人間だったから、
モントリオールにこうして引っ越したことは、願ったりかなったりの状況であったはずなのに。

自分が実際かかるまでは、ホームシックとはただ単に気分的な問題かと思っていた。

だが調べてみると、重くなると、パニック障害のように身体的な症状が出てくるとのことだった。

で、私自身も、常に付きまとう息苦しさ、時々襲う動悸。
まるで狭い所に閉じ込められているような拘束感に襲われ、急に走り出したくなるような衝動に駆られることもあった。

幸い、私の場合は2週間ほどで収まった。

トロントにいる友人、日本にいる友人たちに長文メールで助けを求め、
彼女たちが辛抱強く接してくれたおかげだと思っている。

「そんなに辛かったら、バンクーバーでも日本でも戻ったっていいじゃない」と言ってくれたのが、助けになったとおぼえている。

そう言われても、自分は意地でもなんでもなく、モントリオールにこのままいたいのだ、という自分の気持ちに気付くことができた。

そして、そこから吹っ切れるきっかけに繋がった気がする。

その時、夏だったというのも大きかったと思う。

夏のモントリオールに住めるというのは、紛れもなく一つの特権なのだ。

通年でモントリオールはパーティーシティーだとしても、
夏はさらに特別で、毎日、イベントに次ぐ、イベント。
わくわくすることが、町中にあふれているのだ。

そんな夏を私は、隅の隅まで満喫した。
多くの素敵な出会いも、経験した。
これまで、いろいろな町に住んだけれど、
モントリオールは、間違いなく特別な場所だった。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?