月乃きら

ショートショート、短編小説、絵本の文など。日常と不思議世界の境目を描くのが好きな物語ラ…

月乃きら

ショートショート、短編小説、絵本の文など。日常と不思議世界の境目を描くのが好きな物語ライター。龍の眼とひげをもつうさぎ「うさりゅう」がご案内します。

最近の記事

来世くじ

 死んで初めて知ったことだが、まっとうに生きた人間は、来世でどんな人生がいいか、あるていどまで選べるのだという。ところが俺のように、ろくでもない生き方をしたあげくに若くして 死んでしまった場合は、そうは いかないらしい。    天界の案内人であるメッセンジャーによると、「人生の必修科目を修得しないまま下界を卒業してしまった」人間は、来世で再びその修得にチャレンジできるよう、担当部が大枠の人生を決めてしまうのだという。  だが、俺にはどうしても、どうしても来世でやり直したいこと

    • さずけ地蔵

       佐吉は、けさも畑へ行くとちゅうで、 あぜ道のほこらにまつられたお地蔵さんに 手をあわせにやってきました。 「やっぱり、やられたか」 お地蔵さんの足もとにきのうおそなえした だんごが、そっくりありません。 おおかた里におりてきたきつねかたぬきの しわざにちがいない、と佐吉は思いました。  けれど毎日せっせとおそなえしているものを、 こうつづけざまにとられては、相手が 動物でも、なんだかしゃくにさわります。 「さずけ地蔵」と村でよばれるこの お地蔵さんは、こまったときのお

      • 缶詰め男

        そうだ、残された時間は缶詰の中で生きていこう。男は考えた。 いや、この言い方は違うな。なぜなら自分はもう生きていないのだから。 缶詰の中で過ごしていこう、だ。それならばしっくりくる。 まずは適当な缶詰探しだ。 どうせなら豪勢に、一万円くらいするカニ缶といきたいところだが。 うちにそんな高級品があるわけもなし。 ここはいつも買い置きのあるツナ缶でよしとしよう。 待てよ、ツナ缶では油っぽいかな。 いかん! また生きている感覚でものを考えてしまった。 体はもうないのだから、油

        • むしのしらせ

          むしのしらせ  という ことばの いみを しりたいって? わるいことが おこりそうな よかん のことだよ むしのしらせは とつぜん やってくる たのしいときや うれしいときや きぶんのいいとき  こっちが ゆだんしているときにも おかまいなしに やってくるから  おどろくよ だって おもしろおかしく わらっているときに 「なにか わるいことが おこりそうだ」 なんて ふつうは だれも おもわないだろう?    よくないことが おこる おしらせなんて しりたくない

        来世くじ