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僕がライターではなく、ジャーナリストと名乗っている理由(コエヌマ)

2009年から文章を書く仕事をしている。肩書は当初「フリーライター」だったが、2012年から「ジャーナリスト」に変えた。

文章を書く職業をひとくくりに「ライター」だと考えている人も多く、混乱を避けるために、取材先によっては「ライターです」と名乗ることもあるが、基本的にはこだわりを持ってジャーナリストと名乗っている。

なぜか。”文章を書く”ことは、単なる手段に過ぎない。それよりも、僕は自分の根底にある”何をしたいか?”を重視している。その実現のために、比較的得意な取材や執筆という手法を生かせるライター業を選択しただけだ。

トークが上手ければ人前に出る職業を選んだだろうし、アートが得意であれば映画や写真、美術などの道を志したと思う。根底の思いを適切に表現できるのであれば、アウトプットの手段は正直、何でもいい。

では、なぜ肩書はライターでなくジャーナリストなのか。僕の偏見が多分に含まれていることを承知のうえで読んでほしいのだが、ライターは「文章を書く行為を重視している人」であり、僕は前述の理由でそこに該当しない。「アウトプットの手段は何でもよく、”何をしたいか”を重視し、たまたま文章表現を選んだ」僕は、ジャーナリストという呼称が最も適切だと考え、現在の肩書を決めた。

①「何をしたいか?」が明確で、文章を書くことが自己実現しやすいと認識したうえで、ライターを目指している

②単に文章を書くことが得意だったり、漠然と作家にあこがれがあったりして、何を書くかにはこだわらず文章表現を仕事にできればと、ライターを目指している

この二つは大きく違う。僕が目指したくて、実践しているのは①だ。もちろん②が悪いということではなく、形から入って真剣に取り組んでいくうちに、やりがいを見出して、「何をしたいか?」を実現できるようになった人もいるだろう。

ただ不幸なのは、「書く」という行為や手法自体を自分の好きなことだと思い込み、根底にある「したいこと」に気づかぬまま、あるいはほぼ殺さねばならないまま、ライター業を続けないといけないケースである。

僕はかつて(今もだが)小説家にあこがれ、文章を書く仕事を志した。広告代理店に就職し、広告用の文章をひたすら書く生活を送ったが、「自分は誰のために、何のために、この仕事をしているのか?」がまるで見いだせず、疲弊してしまったことを昨日のように思い出す。②の状態だ。

フリーランスになり、”何をしたいか”を軸に働ける①になった後の僕の目は、死んだ直後と2週間後の魚の目のように輝きが違っただろう。自分が”何をしたいか?”を忘れない戒めのためにも、僕はジャーナリストと名乗っている。


もう一つ。ジャーナリストと聞くと、社会問題に物申したり、不正を糾弾したりと、正義のイメージを持つかもしれない。ほかの同業者はどうか分からないが、僕の場合は全く違う。僕を突き動かしているのは、独善だ。僕は自分の正義、さらに言えば正義ですらない、エゴイズムな感情に沿って動いている。

これまでに僕は、社会問題を扱った記事を数多く発表してきたが、その執筆動機も完全にエゴイズムだ。例えば、セクハラ問題を記事にした動機には、僕が全くモテないうえに、自分から女性にアプローチできないことへのひがみややっかみ、また女性を過剰なまでに神聖化してとらえている、中二病的なゆがんだ意識が多分に含まれていると思う。

よろしくないことがはびこる業界・団体・個人を糾弾する記事でも同様だ。ヤンキーが「最近、〇〇中の奴がいきがってるらしいぜ」という噂を聞き、「マジか!? じゃあちょっと、体育館裏でボコってやるか」と動くようなものだ。立場がヤンキーかジャーナリストか、手段が暴力かペンかの違いに過ぎない。

利他的に動いているわけでないことが伝わっただろうか。実際、僕はドライな性格だと思う。社会的(だと思われる)な記事を書いたり、寄付をしたりしているからか、善人だと思われているのか、「こんな理不尽なことがあるので、記事にしてくれませんか!」と、ときどき告発や情報提供が届く。

しかし、自分が共感できないことはバッサリと断る。「がっかりしました」「もうあなたには期待しません」と言われることもあるが、そもそも僕は社会の公器でもなんでもない。独善でのみ動いているエゴイストである。

ただし、そんな僕にしかできない報道もあるわけで、だからこそ僕はジャーナリストという肩書を変えるつもりはなく、自分の思うジャーナリズムに従って、死ぬまでこの仕事をし続けたいと思っている。

幻滅しただろうか。上等である。僕はそれ以上でもそれ以下でもないし、僕が思うジャーナリストという職業も同様で、あえて僕はその仕事を選んでいる。それだけの話だ。(コエヌマ)

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