尺度を変える・時間

地球が誕生したのは今から46億年前である。あまりに長すぎるので大雑把な私としては、この46億年を1年に置き換えて、歴史を巻き戻してみてやっと理解している次第です。
そこでは実際の1万年が約1分間(正確には69秒ということになる)。
まず明治維新は0,9秒前の出来事となり、信長・秀吉・家康は3秒前のヒーローたちとなる。ダヴィンチがモナリザを描くのは3,5秒前、平安時代中期に紫式部が源氏物語を7秒前に書き、空海が8秒前に高野山を開き、聖徳太子は10秒前に法隆寺を建て、キリスト生誕が14秒前で、17秒前後に孔子とソクラテスがいて、国家の始まりであるエジプト第一王朝が34秒前となる。
氷河期の終末とともに気候が安定して温暖化するようになる(1万年前)がほぼ1分前。
日本史も世界史も歴史はこの1分間のことであり、基本的にこの程度の理解が出来ていることが大事なのです。明治以降の1秒間をあれこれ論じていないでもっと全体を見る必要を最近痛切に感じます。

映画インディジョーンズは面白かったけれど、洞窟画ではオーストラリアの遺跡が一番古く、世界各地で洞窟画が現れる(4~5万年前)のが5分前。
洞窟画はいずれも顔料を使った芸術的なもので何らかの精神性もしくは抽象的な思考能力が生じたことをうかがわせるもので、考古学者たちは「人間への革命と呼んでいる※1。
考古学といえども今から5分前までが守備範囲なので、考古学もとりあえずこれで充分。

アフリカに現世人種の新人ホモ・サピエンスが登場する(50万年前)が約1時間前、類人猿に中で非常に近い関係のチンパンジーとヒトが分岐する(500万年前)が約10時間前である。
DNAの塩基配列ではチンパンジーとヒトとの差は2,4%に過ぎない。
ヒト科の特徴は生活の場所を樹上から地上に移したことである。
これは1~2日前から気候が乾燥して密林が疎林となり、草原(サバンナ)が広がっていき草食動物が増えて大型化し、ウマ、ウシ、ラクダなどが繫栄したことによってサルも地上に餌を求めるようになったからである。
猿人類を含むヒト科の誕生(3000万年前)が2日半前でこのあたりは人類学の範疇ということになる。

恐竜の絶滅は5日前(6500万年前)であるが、それまで約2週間(1億6500万年)もの実に長い期間恐竜は繁栄している。だからいまだに地球のあちこちで恐竜の化石が出現するのは当然なのですね。

ただ一つの超大陸パンケアが形成される(2億5000万年前)が20日前で、パンケアは超海洋のパンサラッサに取り囲まれていたが、次第に大小の大陸塊に分裂し、大陸塊の間に大西洋やインド洋が発生し拡大する。一方パンサラッサは減少しつつ現在の太平洋になっていく、というあたりは地質学が必要になってきて、かなり想像力を刺激してくれます。

1か月前(4億年前)にはオゾン層が形成され、植物に続いて昆虫とクモ類が陸上に進出する。7週間前のカンブリア紀(5億4500万年前)には温暖な気候とともに全世界で現在の生物の祖先が一斉に登場する。この時より前を先カンブリア時代と言うが、地球の歴史のうちこの先カンブリア時代は約87%(※2)も占め、10か月間(40億年)も続く。5か月前(20億年前)には、単細胞で核膜をもつ真核生物が登場する。真核生物の中に食料として原核生物(核膜を持たない単細胞生物)が取り込まれ、消化されずに残ることで真核生物の中の細胞小器官として働き始める。これがミトコンドリアである。
ミトコンドリアは現在いるほとんどの動植物のエネルギー発生器官となっている。9か月前(35億年前)にはついに生命が地球に誕生する。最初に栄えた生物は原核生物で、DNAが存在する部分の細胞核がはっきりした膜で囲まれていない生物で、この内重要なのがラン藻類である。
これが光合成によって水と二酸化炭素と太陽光から酸素を作り出し、地球の環境を次第に変えていく。
地球の大気は最初、水、二酸化炭素、メタンなどで酸素はほとんどなく、生命に有害な紫外線を吸収してくれるオゾン層もなかった。
そこで原始生命は紫外線の届かない海の中に生まれることとなる。ここは微生物を含めた生物学が魅力的で、生命と地球そのものを考える緒言にたどり着きます。

海と陸が誕生するのは10か月前(40億年前)で、1年前(46億年前)に太陽系とともに地球が誕生したときには、地表はドロドロのマグマの海の状態である。およそ2年前(100億年前)に銀河系が誕生し、3年前(150億年前)にはビッグバンの大爆発によって宇宙が生まれ、この時から全ての時間が始まるわけであるが、最後は物理学、数学、天文学の世界です。

こうしてみると実に加速度的に歴史が展開していることがよく分かる。
現代の人間生活を作った長いはずの歴史も地球の歴史時間の尺度からすればほんの1分足らずの出来事に過ぎない。しかし最近1秒間の中身の密度はすさまじいばかりであるが、人間がものを考えるようになってからまだほんの5分しか経過していないのです。

宇宙とまではいかなくてもせめて地球全体の視野で物事を見る目と心をもっていれば、日常の細々とした煩わしさの悩みなど霧散するばかりか、アイディアの宝庫とさえなってくれます。



  • 「地球の圧倒的な美しさ……鮮やかな色合いに満ちた地球と無限に広がる漆黒の闇….私たちは口を開けば専門や自分自身について、人との違いばかり強調しがちだ。しかし私たち人類は経験や恐れや希望や喜びや愛を共有している。その共感があらゆる相違を超えて人類を一つにしているのだ。」-ラッセル・L・シュワイカート 宇宙飛行士 アメリカ宇宙探検家協会会長

  • 「宇宙に行った人は誰でも知っている。行く前は地球を離れた世界はどんなだろうと憧れる。しかし行ってみるとその魅力はすぐに消え失せる。宇宙の深淵は退屈になるほど一様な暗黒だ。私たちの注意を引き付けるのはその暗黒ではない。漆黒の中で青い光輝に包まれて浮かぶ地球なのだ。不意に私たちは今まで経験したことのない気持ちで胸がいっぱいになる。私たちは地球の住民なのだとしみじみ感じる。」-アリョーグ・マカロフ 宇宙飛行士 ソ連宇宙探検家協会会長


※1『宇宙創成から人類誕生までの自然史』和田純夫著 ペレ出版2004
※2『地球の誕生』地学団体研究会編 東海大学出版会1995

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