その人だけに価値がある1本のペンを丁寧に選んでいきたい。
ものの個性を引き出し
人との良縁を取り持つ
それぞれに製造されるまでの物語を持つ「もの」。
菊池さんは、特長を熟知してブランドや商品に「スポットライトを当ててあげる接客を心掛けています」。なんとなく見た目が好みだから手に取るよりも「背景を知って選んだ方が、愛着が湧くはずです」。
「もの」と「人」の物語を強く意識したのは、菊池さんが24歳の頃。親友と闘病中のお母様のエピソードを聞いてからです。死を意識されたお母様に「好きなものを買って」と50万円を渡され、親友は腕時計を購入。それは高校時代に菊池さんと一緒に行ったショップで見付け「カッコイイ」と2人で目を輝かせたものでした。
青春期に2人の憧れだった腕時計。これからはお母様との思い出が加わり、親友の未来まで刻まれるのです。
「『もの』には人の物語を刻む余白があることに気が付きました」
自ら物語を知り、それを伝え、さらに長い物語を、使う人にも紡いでもらいたい。
菊池さんの願いです。
県内各地の物語を
色で伝える「地域色」
特注のショーケースには、ペリカン、パーカー、ヴィスコンティなど菊池さんが厳選した一流ブランドの万年筆やボールペンが並べられ、壁の棚には、万年筆のための便箋やノートなどの紙製品にインク。
どれも市内では珍しい筆記具ですが、菊池さんがプロデュースしたここでしか手に入らないものもあります。
その一つが、2016年から販売している地域色を活かした万年筆インク「いわてのいいイロCOLOR INK」です。宮古市のふるさと納税返礼品にもなっている「浄土ヶ浜エターナルグリーン」をはじめ「龍泉洞ドラゴンブルー」「久慈アンバーイエロー」など全12色。調合はすべてセーラー万年筆(株)に依頼しています。
2021年からは、県内在住のガラス作家・平野元気さんに制作を依頼したガラスペン「いわてのいいイロGlass pen.」も販売。久慈市久慈駅から大船渡市盛駅までを結ぶ三陸鉄道の車両カラー、青・赤・白の「さんてつトリコロール」が螺旋状のラインになってデザインされています。
どちらも一般社団法人日本地域色協会が提案する「いわてのいいイロ発信プロジェクト」に賛同し、独自に企画した商品です。
「単純に特産品や名所を発信するのではなく、背景の物語を色を通して伝える、という趣旨が素敵だと思いました」
ものを信じることは
人を信じること
「pen.」には「今日は話をしに来た」といって、ふらっと立ち寄るお客さまも多くいらっしゃいます。中には、この店で筆記具を買ってから仕事の調子がいいとお礼に来る方も少なくありません。
「感謝していただけるのはとてもうれしいですが、店に来た時点で、すでにお客さまの気持ちは前を向いていて、その結果が仕事の成果につながったのだと思います。私は少し花を添えただけです」
大切にしたいと思えるものと出合いたい。お客さまの気持ちを汲み、話を丁寧に聞き取りながら、菊池さんは筆記具を説明し、選ぶサポートをします。
この店で扱う「もの」すべてが、それを手にする「人」の幸せな物語を紡ぐ助けとなり、共に人生を歩む伴侶になってほしい――。
菊池さんが選び抜いた色彩豊かな万年筆やボールペン、インクが、ショーケースの中で、いつも輝いています。
自ら選んだ、自分にとって特別な価値を持つペンをジャケットの内ポケットに挿すだけで、その日その日を生きる元気や勇気が湧くこともあります。自分が持つ「もの」を信じることは、自分を含めた「人」を信じることだと、菊池さんは体現しているようでした。
菊池保宏(きくちやすひろ)
1980年、岩手県一関市生まれ。
盛岡市内でサービス業や小売業に従事した後、2014年「pen.」をオープン。
HP:
http://pen-iwate.com/
Facebook:
https://www.facebook.com/pen.iwate/
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