見出し画像

表現を探求することは、自分の変化を楽しむこと。

※2021年9月24-25日開催予定だった「音のパレット」は、新型コロナ感染症拡大防止のため、2021年11月26日(金)18:00に延期となりました。

フルーティストの村野井友菜さんが、岩手県盛岡市で活動を始めて6年。自身が主宰するフルート教室では、全国大会で1位を獲得した生徒も育っています。指導者として活躍する一方、多様な音楽家とユニットを組み、積極的に取り組んでいる演奏活動。2021年9月に再始動する「音のパレット」もその一つです。指導者として、演奏家として、フルートの魅力を届ける村野井さんにお話をうかがいました。

画像8

愛用のフルートは三響フルートの18K-3。

始まりは小学校の吹奏楽クラブ
生徒の自信と技術を伸ばす先生を目指して

村野井さんが、初めてフルートに触れたのは小学3年生の冬。
音楽好きの両親に勧められて、小学校の吹奏楽クラブへ入部しました。
レッスンに通うために買ってもらったフルートはヤマハ。
この頃から28歳の今でも「両親は一番の理解者」です。
宮城県仙台市にある常盤木学園高等学校音楽科への進学を望み、14歳で親元を離れると決めたときも背中を押してくれました。大学進学、そして卒業後は盛岡で活動できるよう、新築した自宅にスタジオを設け、支援してくれています。
教室を構えたのは2015年。2020年には第29回日本クラシック音楽コンクール「優秀指導者賞」を受賞しました。全国大会に入賞者2名以上または出場者3名以上を輩出した指導者に贈られる賞です。
すでに5名ほどの生徒が、全国レベルにまで実力を伸ばしています。
指導者を志したのは、高校在学中。厳しいレッスンにフルートを吹くことが怖くなった時期でした。
生徒が自信を失わず、フルートをもっと好きになる教え方とは――。
この体験を通し、そういう先生になろう、と考えたのでした。

画像8

自宅のスタジオ。生徒と間にビニールの幕を張ってコロナ対策。

画像10

楽譜を読むことを中心とした
音楽の基礎訓練「ソルフェージュ」も教えている。

フルートの素材
約4万年前に動物の骨でつくられた縦笛から現在普及している金属製の横笛になるまで長い歴史を持つフルートは、素材の多様さも魅力の一つ。
:クリネットにも使われるアフリカ原産のグラナディラ材が一般的。倍音は少ないが、柔らかく温かな音色。
洋銀:銅と亜鉛、ニッケルを合成したもの。白銅ともいう。バランスが良く、明るい音色。入門用のフルートによく用いられる。
:現在のフルートの元型であるベーム式フルートに採用。「最もフルートらしい」とされる輝かしく伸びのよい音色。
:5~24Kまで幅広い純度がある。倍音が多く、艶のある音色で遠くまで響く。フルート自体の美しさも特長。
※倍音とは、出した音(基音)の他に微かに鳴る複数の高い音のこと。音の心地よさや明瞭度に関係するといわれる。

理想の先生像を体現する
恩師との出会い

愛用するフルートは、反応が良く、倍音が多いといった特長を持つゴールド製。メーカーは三響フルートです。
「佐久間由美子先生の音に近付きたくて選びました」
進学した国立音楽大学の客員教授で、東京藝術大学附属音楽高校よりパリ国立高等音楽院に入学しプルミエ・プリ(一等)を得て卒業した日本トップクラスのフルーティストです。レッスンで初めて見た佐久間さんの演奏は「水が流れるようにしなやかで、本当にきれいな音でした」。
指導者としても一流です。
試験曲の中の、指をうまく動かせない箇所を聞いてもらったときのこと。「この音に気を付けて」とアドバイスがあり、指示通り吹くと指がスムーズに動きました。
一度聴いただけで弱点を見抜く聴力に驚いたといいます。
「人としても、とても尊敬しています」
フルーティストの登竜門、ジャン=ピエール・ランパル国際フルートコンクールでグランプリを獲るなど輝かしい経歴を持ちながら、生徒にも敬意を持って接していて、練習が大変でも辛くはありませんでした。

画像8

手前の譜面台は生徒用。村野井さんは奥で指導する。

画像9

画像11

美術館や水族館を巡るのが趣味。
感染予防のため、最近は控えているという。

「伝わる言葉を探る」「褒める」
指導の中心には、生徒を敬う心

「ごうごうと燃える赤い炎ではなく、静かに燃える青い炎のような音を使って」
佐久間さんのアドバイスは、イメージを掴みやすい言葉が多くありました。その経験から村野井さんも音を色に例えるなど、言葉には工夫しています。この方法は「理論ではなく音のイメージを伝える場合や、小さい子への指導に役立つ」といいます。
「唇に余計な力が入っているときに、そのまま伝えても、もっと力んでしまうだけ。背筋を伸ばしてとかお腹に力を入れてとか、力が必要な他の場所に意識を向けてあげます」
相手の気持ちに寄り添い、機転を利かせることも忘れません。
「日々の練習も褒めています。成果がまだ出ていなくても関係ありません」
現在、生徒は20名ほど。依頼があれば、小中学校の吹奏楽部へのパートレッスンも行います。
「もっとたくさんのフルーティストの力になりたいと思っています」

画像13

2021年9月の「音のパレット」チラシ。

画像15

前回の「音のパレット」。
公演を岩手県公会堂で開催。約90名を動員した。

人の声に近い音を持つ
フルートの多彩な役割

指導者として活躍されている村野井さんですが、演奏活動にも積極的です。新型コロナウイルス感染症が広がる前は、年間約15回のステージに出演していました。
コンサートは、自分が感じている曲の魅力をお客様に届ける場所。より深層に届けるため、練習は欠かせません。
9月24日と25日に開催する「音のパレット」は、約2年ぶりの自主コンサート。歌とピアノとフルートのアンサンブルです。
初めての公演は2019年10月、場所は岩手県公会堂でした。約90名を動員し、成功裏に幕を閉じましたが、2020年4月に予定していた2回目はコロナ禍で中止せざるを得ませんでした。
「音のパレット」でのフルートは、曲にオーケストラのような華やかさを与える役割。加えて、人の声に近い音を奏でるという特長を生かし、歌の「ハモリ」としても活躍します。

画像14

コロナ前まで毎年開催していた「菜の花デュオ」コンサート。
ピアニストは岩手県盛岡市出身、神奈川県在住の土井彩花さん。

画像6

2019年は岩手銀行赤レンガ館で開催。
1911(明治44)年に落成。
2012(平成24)年8月で銀行としての営業を終了。
現在は一般公開されている。
設計は東京駅でも知られる、辰野・葛西建築設計事務所による。
辰野金吾が設計した建築では東北に残る唯一の作品。

コンサートの準備は
楽譜の書き起こしから

2日間で1時間ずつ3公演を行う今回のコンサート。会場は岩手銀行赤レンガ館です。各公演ごとにテーマを変え、同じ曲は演奏しません。
コンサート準備は、選んだ曲の編曲から始まります。
編曲とは演奏の形態に合わせて、曲をアレンジすること。歌、ピアノ、フルートで編成される市販の楽譜はほとんどありません。
各パートを生かし合うハーモニーから息継ぎのタイミングまで、編曲では考慮するといいます。作曲の知識があり、曲の構成を理解していることはもちろん、音に対するセンスやバランス感覚が要求されます。
公演中も聴力を駆使して、お互いの音量やタイミングを図り合います。
舞台から降りるまで緊張は続くのです。
「コンサートは常に勉強です」と村野井さんは笑います。

フィリップ・ゴーベール Philippe Gaubert(1879-1941)
フランスのフルート奏者、指揮者、作曲家。特にフルートの名手で、現代のフルート奏者にとって重要なレパートリーとなっているフルート作品を多数作曲したことで知られている。代表曲は「ファンタジー(Fantaisie)」「ノクターンとアレグロ・スケルツァンド(Nocturne And Allegro Scherzando)」など。
「音のパレット」9月25日15時からの公演「世界の音楽」では、ゴーベール作曲の「マドリガル(Madrigal)」をソロ演奏する。

画像13

画像14

「菜の花デュオ」でのコンサートも今は自粛中。
YouTubeやInstagramで演奏動画を配信している。

求められる
「奏者の目線」と「聴衆の目線」

フルートは「曲を表現するための道具」と、村野井さんは言い切ります。
きれいな音で楽譜に正確な演奏ができることは最低条件です。
奏者は「作曲家が思い描いた音楽を表現すべき」。作曲家の思いを汲み取る過程で、曲に「自分なりの解釈」で色が付いてしまう「遊び」が、音楽の楽しさであり難しさなのです。
演奏家であり指導者であることは「プラスの影響がある」と話します。技術や知識のようなミクロの世界へ向かう「奏者の目線」と、自分の演奏すら突き放して観察するマクロに世界を見渡す「聴衆の目線」。
念入りに描き込んだ絵を離れて確認する画家のように、ミクロとマクロ、2つの視線を頻繁に往来することで技術は向上し、表現は洗練されます。
「年を重ねることでしか、生まれてこない表現もあります」
人間関係や読書体験などを通して、自分自身が人間として成長すれば、曲への理解も変化して当然です。
これらの積み重ねが、味わいのある、豊かな表情を音楽に与えると信じています。
「表現を探求することは、自分の変化を楽しむこと」
村野井さんの凛とした声と迷いのない言葉は、未来に発信されています。

画像8

村野井友菜(むらのいゆうな)
1992年生まれ、岩手県盛岡市出身。
常盤木学園高等学校音楽科、国立音楽大学音楽学部演奏学科卒業。
大学卒業後、活動の場を盛岡に移す。
フルートとピアノによる「菜の花デュオ」コンサートを毎年主催。
現在、ソロのほか室内楽、オーケストラの団員として演奏活動を行うと共に、フルートアンサンブルの編曲も手がける。
フルートカルテット「Nadja(ナージャ)」のメンバー。
教室では、個人レッスン、動画添削レッスンの他に、ソルフェージュも行っている。
web:
http://yunamuranoi.hiho.jp/
instagram:
https://www.instagram.com/aojisopizza/

編集後記
話の合間で、何気なく動かした指。服の裾を直す手。
動きは静かでゆっくりですが、止まるところではしっかりと止まる。
体の隅々までちゃんと意識されているような品のある身振りに、楽器演奏という舞台芸術にずっと身を置かれている方なのだと、改めて感じました。
                        取材・撮影/前澤梨奈

よろしければ、お願いいたします! 「つきひ」をフリーペーパーにしたいと考えてます。