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こころがぎゅっとなる、あの頃のリアルを思い出す「桐島、部活やめるってよ」(朝井りょう)

2012年に出版された朝井リョウさんの小説を今更ながら読んでみました。

タイトルに「桐島」とあるので、桐島くんの視点で物事が進むのかと思いきや、まさかの「桐島」本人は出てこなくて驚き。
桐島の同級生5人の視点で物語が展開するという面白い内容でした。

5人出てきますが、そのうちの1人、「沢島亜矢」という女の子の描写がとても面白かったので紹介します。
甘酸っぱい青春の恋心、「わかる〜〜」と共感してしまいました。

どんな女の子かというと、、

・部長として部活動を頑張りながらも、好きな男の子(竜汰)の事を考えてしまい部活動に身が入らない。
・しかも、「志乃」というかわいい友達も竜汰が好きで、自分に引目を感じてなにも行動できないでいる。

一番亜矢に共感するのは、
友達がとてもかわいく見えてしまう
というところですね(泣)

亜矢は度々、志乃の行動や言葉に羨ましさを感じています。

「志乃の友達」というポジションを無言で守りながら、気軽に竜汰、と呼び捨てにできる志乃をうらやましくも、憎たらしくも思う。

リップクリームを塗る志乃に対して、

ピンクが似合う女の子って、きっと、勝っている。すでに、何かに。

(読点の位置が絶妙すぎて、亜矢の感情が伝わってくる。。)

私、竜汰が好きだな、と呟いた志乃に対して、

私はそのとき、世界で一番美しいものを見たと思った。

でもやっぱり、亜矢は竜汰が好きで、彼を呼び捨てにできる志乃が羨ましくて、

春の泉のようなくちびるで、竜汰、なんて呼ばないで欲しい。

もーー辛いーーーー(泣)

仲が良くて自分よりかわいいと思う友達が、
自分と同じ人を好きだったら、あ、負けた、とか、男の子ってこういう女の子が好きなんだろうなーって妄想しちゃうわけですよ。
しかも、亜矢は自分の気持ちに蓋をしてしまうんです。
でもどうやっても彼を探してしまうし、彼が教室に入ってくると胸がきゅーってなってて。
だから、べつに彼のこと好きじゃないって、自分に嘘をついていることは分かってる。

もう、どうしたらええのー(泣)(本日私荒れ模様です。)

朝井さん、亜矢の心情がリアルすぎて心痛いっす。

そんなリアルな亜矢の気持ちをチョコレートを使って表現しているのが素敵でした。
(とても勉強になるー!)

・食べ終えてしまったチョコレートの後味は、叶わない恋の切なさだけを集めたようだ。
・ちろり、と甘い気持ちになる。チョコレートなんて舐めてないのに。

ほろにがーい!(ハンバーグ師匠風に)

チョコの味と恋心をリンクさせることで、亜矢の心情がダイレクトに伝わってきます。
味覚と合わせるのっていいですね。

ただ、恋の描写だけではなく、学校によくある、閉ざされた空間ゆえに自然発生的にできる「人間の階層化」についても書いてあります。
これによって、亜矢がいる状況や立場をより明確にしてくれます。

・なんで高校のクラスって、こんなにわかりやすく人間が階層化されるんだろう。

・志乃がなんで私と行動しているのかって、もともといたトップグループの女子にはじかれたから。

・一緒にトイレに行ったりお弁当を食べたりしている関係

・(そういう人間関係について)指でつっついてしまえばすぐに壊れるし、光が当たればそこら中に歪んだ影が生まれる。

女の子は特に、グループ内での生き残りがその後の学校生活を左右すると思っています。
生き残れられれば楽しいし、はぶられれば、マリアナ海溝くらいドン底に落ちて行きます。女子にとってはこれは深刻な問題です。

一見仲良さそうに見えるけど、それははぶられないようにリーダー的存在の人にこびをうっているんですよね。
私の場合、高校の時はなかったけど(自覚していないだけ?)、小中の時が酷かったです。友達泣いてたし、もちろん私もターゲットにされてたし。

朝井さんは男性だけど、この女性にありがちな問題についてもしっかり描写されているのがすごいです。


作家の朝井さんはこれを学生のころに書いているというのが、この”リアル”に繋がっているのだろうと想像できます。
年齢を重ねていくと、純粋な恋心って感じにくくなりますよね。
でも、この小説は青春時代に抱いた”胸が苦しくなる感情”を思い出させてくれます。

この本の人気の理由は「リアルさ」なのだろうなあと思った、何度でも読みたくなる小説でした。

読了。

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