美しいmad_ideaとそのメリット

世の中には美しいアイデアというものがあって、それを言語化するのは難しいです。ですが、とあるデザイナーの方が言語化していました。

私の好きなデザイナーの一人に大西拓磨さんという方がいて、その方が少し前に『上野動物園近辺の塀の一部を掃除してパンダを描く』ということをやっていました。前提としてこれはすごく美しいアイデアなんですよね。これは何故かというと、ベン図を想像してみてください。

ベン図 - wikipediaより

ベン図というのは当然ですが条件(円)の数が増えれば増えるほど共通部分(図の赤い部分)というのは少なくなっていきます。先ほどの『上野動物園近辺の塀の一部を掃除してパンダを描く』という行為で考えると、「①表現をするときに人様に迷惑をかけてはいけない」という条件(円)が一般常識として発生します。当たり前だろと思う人もいらっしゃるかもしれませんが人様に迷惑をかけて表現した例はいくつかあります。

これ自体の善悪はわかりかねますが、間違いなく人様に迷惑をかけずに表現するという行為自体は美しいもののひとつですよね。そして先ほどの条件に「②塀を掃除するという行為は迷惑ではない」という条件が重なるわけですね。それに加えて「③上野動物園はパンダが有名な動物である」という条件が重なって、最後に「④パンダは白黒で描ける動物である」という条件が重なっているわけです。つまり、単に「この絵はかわいいパンダの絵である」という喜びだけでなく、発生した4つの条件がうまい具合に重なっているわけですね。(彼はこの思考法をデザイン的思考と呼んでいます。)

この発生している条件の共通部分(図の赤い部分)がいかに低確率で、このアイデアがいかに美しいものであるかがわかっていただけたでしょうか。

というのが美しいアイデアの言語化の一部ですが、私はこの美しいアイデアを、音MADに流用できると考えています。

例えばこれは音MDM天で流れたHappy Machinery兄貴とAnswerDesk兄貴のタッグ、『Team C☆』の『推定スウィーティ☆』という音MAD作品ですが、この作品も凄く美しいものだったりします。

ここでの条件は、「①(歴史的に)クッキー☆は嫌がらせされることが多いが、この動画はそうではなくてクッキー☆本来の美しさを表している」、「②曲の性格とクッキー☆の性格がマッチしている」、「③技術的に(ここでの技術的とは、制作進行、音響、色彩、演出、3Dモデリング、アニメーション、編集のすべてを意味する)優れていて、この時代に圧倒的なクオリティーを誇っていた」の三つがあるかと思います。

①の根拠としては単純にそうで、②の根拠としては、「音MADは大抵の作品が私的に作られている」という流れがあって、その中であえてこの選曲をしたということ自体に意味があるからです。③の根拠としては兄貴方のnotetwitterを見ればわかりますが、それまで音MADでここまでのガチガチの音響、色彩、演出、3Dモデリング、アニメーション、編集をしていた作品はなかったからです。特に色彩やアニメーションに関しては群を抜いていると思います。こちらも単に「すごい動画だから」ではなくて、様々な条件が重なって美しいものになっている、というのがお分かりいただけたかと思います。

ここまで美しいアイデアというものを語ってきましたが、美しいアイデアというのは単に”美しい”だけでなく、他にも大きなメリットがあります。それは、音MADを合法化できる(かもしれない。)という点です。

詳しくはこちらの記事を参照してほしいのですが、ざっくりいうと美しいmad_ideaは音MADをファンアートとして昇華させ、二次的著作物化することにより著作権侵害ではなくなるかもしれないということです。
少しだけかいつまんで説明すると、音MADが侵害している著作権法というのは3つに分かれ、それぞれ公衆送信権、翻案権、同一性保持権というものになるのですが、

日本の著作権法では、第2条1項11号で二次的著作物を「著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物」と定義している。第11条で「二次的著作物に対するこの法律による保護は、その原著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない」と規定し、第28条で二次的著作物の利用に関する原著作者の権利を規定している。

二次的著作物」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(http://ja.wikipedia.org/)より2024年5月13日(日本時間)

日本の著作権法における二次的著作物の定義はこのようになっているので、
このうち、翻案権と同一性保持権を順守することによって音MADを二次創作(二次的著作物)化し、公衆送信権の侵害には当たらなくすることができます。つまり、

  1. 作品を二次創作であると明記すること。

  2. 使用素材を原作に登場するもので統一すること。

  3. 動画の表現形式が原作に準拠していること。

  4. 原作、原曲の世界観を壊さないこと。

これらを遵守することにより、おそらく音MADを合法化することができます。1は翻案権の抵触の防止、2、3、4は同一性保持権の抵触の防止の目的があります。

これが美しいアイデアとどう繋がるかというと、素材を私的に選ばずある素材で統一し、先ほどの条件を順守する(≒先述の美しいアイデアで音MADを作る)ことによって音MADの合法化が狙えるという話です。

もちろん二次創作なので運営から訴えられるリスクが完全になくなる(なくしたいなら一次創作をするべきですが)わけではありませんが、著作権的にはセーフとなるはずです。(判例が出ていないから何とも言えませんが。)

以上が、美しいmad_ideaとそのメリットです。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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