音MAD問題

こんにちは。漬物石と申します。(今まで詳しい先行研究が無かったので)この記事では音MADについて少し考えてみました。


はじめに

動機

色々ありますが一番は先駆者様の文献が無いこと、次いで音MADが内包する問題は誰かが論じなければならないだろうと思ったからです。

記事の内容について

記事の内容は全て私(漬物石)の持論と解釈してください。
なるべく正しい情報と正確な引用をするつもりですが、私は弁護士ではないため、誤情報等による損失に対する責任は一切取りません。
誤っている箇所があればご指摘ください。
私は音MAD作者ですが中立な立場での情報提供を心掛けています。
本記事は著作権侵害を推奨するものではありません。
そして音MADそのものを正当化するものではありません。

音MAD界隈が何故成り立っているのか

皆さん、一度はこう考えたことがありませんか。
音MADはそもそも法に則っていないのになぜ界隈が成り立っているのか―。

私は今まで何度か考えたことがあります。いくつかの要因が考えられると思いますが、私が出した結論は著作者がかける手間と技術共有です。

著作権法と音MAD

音MADはそもそも法を犯しているという指摘はこれまで何度もされています。音声の原曲に使用している楽曲、大量の画像、又は動画メディアたちは文字通り数えきれないほど著作権侵害をし、動画が削除されています。ですが、実際に音MAD界隈が抹消されてはいません。世界的大企業であるGoogleからすれば一界隈を抹消することなど簡単にできるはずですが、これは何故でしょうか。私が調査したところ、”検挙する側が手間がかかりすぎるから”に起因します。まず、音MADが主に侵害しているのは著作権法ですが有罪となる線引きがはっきりとしていません。

音MADが侵害しているのは著作権法、と総括して述べましたが著作権法の中にも様々な分類があります。


この中で音MADが侵害しているのは著作権法の公衆送信権翻案権同一性保持権です。詳しくはwikiを参照してほしいのですがそれぞれ簡略化して説明すると、

「著作権法」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(http://ja.wikipedia.org/)より
2024年1月31日(日本時間)
  • 公衆送信権 - 著作物を公衆に送信する権利

  • 翻案権 - 思いついた著作物を独占する権利

  • 同一性保持権 - 著作物を著作者の意に反して変更できないようにする権利

です。麻雀なら何かの役が付きそうなくらい侵害していますが、何故音MAD界隈から逮捕者が出ないのでしょうか。それは単純に手間がかかりすぎるからです。一般に逮捕しようとすると刑事事件か民事事件かになりますが、いずれにしても少なくない時間がかかります。音MADの被害に逢われたとあるミュージシャンの方の発言から鑑みると、音MAD作者を検挙するぐらいならもはや何もしない方が得策となりえるようです。つまりは著作権者の優しさで見逃してもらっているだけであるという結論に至ります。

捕まらないからと言って音MADを作っていいのか

裁判の判決というのは過去の判例を参考にするのが通例ですが、この記事を見てみるとやはり音MADは犯罪行為のようです。この判例から考えると、単なる音MAD動画は著作物の複製に当たるようです。ですが、果たして本当に犯罪なのでしょうか。ひとえに音MADと言っても千差万別です。この動画(再公開)はあまり加工がされておらず著作権侵害の判決を受けましたが、これが著作者の意向に沿った音MADだったらどうでしょうか。具体的に言うとファンアートとしての音MADなら。映像作品としての音MADなら。
例をいくつか挙げると、

これらは違法なのでしょうか。両者ともクオリティーは素晴らしいもので、音MAD史に残る作品と言っても差し支えないでしょう。もしこれらの作品が違法となり、動画の削除処分となるのならばそれこそ法に則っていないと言えるのではないのでしょうか。ので、これらの作品が違法ではないとする根拠を法的に考えてみました。

合法音MAD

私は合法的な音MADとして、二種類に分類できると考えています。
ファンアートとしての音MAD映像作品としての音MADです。

ファンアートとしての音MAD

ファンアートとしての音MADは、文字通り音MADの原作が原曲の世界観に準拠している必要があります。これに当てはまる具体的な条件を考えてみましょう。前述の通り、音MADが侵害しているのは、公衆送信権、翻案権、同一性保持権です。

二次的著作物の定義

日本の著作権法では、第2条1項11号で二次的著作物を「著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物」と定義している。第11条で「二次的著作物に対するこの法律による保護は、その原著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない」と規定し、第28条で二次的著作物の利用に関する原著作者の権利を規定している。

二次的著作物」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(http://ja.wikipedia.org/)より
2024年2月2日(日本時間)

日本の著作権法における二次的著作物の定義はこのようになっているので、
このうち、翻案権と同一性保持権を順守することによって音MADを二次創作(二次的著作物)化し、公衆送信権の侵害には当たらなくすることができます。まとめると、

  1. 作品を二次創作であると明記すること。

  2. 使用素材を原作に登場するもので統一すること。

  3. 動画の表現形式が原作に準拠していること。

  4. 原作、原曲の世界観を壊さないこと。

これらを遵守することにより、音MADを合法化することができます。1は翻案権の抵触の防止、2、3、4は同一性保持権の抵触の防止の目的があります。
ファンアートとしての音MADの具体例を使って説明すると、

いずれの作品も音MADであることを明記しており、使用素材の統一が図られています。『各駅停車で旅をして』であれば漫画調、『【音MAD】イワシが土から生えてくるんだ』であればドット絵、『推定スウィーティ☆』であればアニメ調等、世界観を原作、原曲の雰囲気に合うように作られています。原作、原曲の意図に沿って作られたこれらの動画は、単なる音MAD動画からファンアート、法的に言うと二次的著作物に昇華したと言えるでしょう。つまり、ファンアートとしての音MADは、原作からサンプリングし、新たな芸術分野を確立していると解釈することができます。

(拙作、Big Runもこの条件を意識して動画を作成しました。)

注意したい点としては、むやみに自分の好きなように素材を選んでしまう(所謂私的)と、翻案権と同一性保持権を侵害してしまう可能性が急速に高まるので私的音MADを合法的に扱うのはかなり難しいと思われます。

映像作品としての音MAD

その音MAD動画に原作が存在しない場合、その動画は”表現形式として音MADを使用している”と捉えることができます。その動画の表面上は音MADに見えるものの、実は映像作品で、形式として音MADを使用しているという考え方です。

著作物の定義

著作物とは、日本の著作権法の定義によれば、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(2条1項1号)である。要件を分解すれば、次の通りである。
1.「思想又は感情」
2.「創作的」
3.「表現したもの」
4.「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」

「著作物」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(http://ja.wikipedia.org/)より
2024年2月1日(日本時間) 

著作物のwikiによると、著作物の定義は上記の通りでこれを順守する条件、つまり「映像作品としての音MAD」に当てはまる条件は、

  1. 二次創作ならば二次創作であることを明記すること。

  2. 著作物が任意の音MAD形式を用いて思想または感情を創作的に表現したものであること。

の2つです。1は同じく翻案権の抵触の防止、2は創作した動画の著作物化です。
具体例は以下の作品です。

(クオリティーが高すぎて分かりにくいですが、後者の動画は音MAD作者が制作に関わっています。)

前者は使用曲を明記を明記しており、それ以外は両者とも一次創作物で、「思想又は感情」を「創作的」に「表現したもの」で「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」にあたると考えられます。もう一度説明すると、映像作品としての音MADは、実は映像作品で、形式として音MADを使用しているだけということになります。

脱法音MAD

合法音MADの二つの条件に満たない音MADでも逮捕されない場合、いうなれば脱法音MADが存在します。一つ目は、

著作権者の優しさで見逃して貰っている場合

です。おそらく99.9%の音MAD動画はここに分類されるのではないかと思います。ここに分類される音MAD動画を作る場合は著作権者に動画を削除されようが訴えられようが諦めるしかありません。

著作権者が自分である場合

いわゆる『全部俺』です。かなり限定的ですがあり得なくはないです。こちらの動画は創作物には当たるものの「思想や感情」を表現した作品ではないため本来、法的にはアウトな作品なのですが素材が自分であり、曲の著作権者(2号兄貴)が著作権を主張していないため法的にはセーフです。

著作権が放棄されている、または使用が許可されている場合

クリエイティブ・コモンズライセンスというものがあります。これは著作権を部分的に放棄するもので、youtubeにもライセンスが適用されている動画があります。

YouTube内で用いられているクリエイティブコモンズライセンスは、表示 3.0 非移植というもので、作品のクレジットさえ表示すれば改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されます。このライセンスが適用されている素材であれば音MADを作っても法的に問題がありません。(原作者からどう思われるかは別としてですが。)

クリエイティブコモンズじゃなくとも使用が許可されていれば法的には問題がないと考えられます。

こちらの動画であれば結月ゆかりというキャラクターの規約が遵守されているため法的には問題ないでしょう。

以上の分類によりすべての音MAD動画が合法、脱法音MADのいずれかに当てはまるのではないかと思います。

音MAD界隈が成り立っている理由のもう一つは技術共有にあると私は考えています。

豊富な技術情報

次に技術共有について話そうと思います。音MADは他の界隈と比べてもかなり技術情報の共有が活発だと感じます。有名どころだとYTPMV.infoさんとか、FLAPPERさんとかですかね。discordでのスターター配布とかも。

FLAPPERの管理人のseguimiさんも元MAD作者みたいです。)

個人サイトに限らずnoteや音MADの作り方の動画等で様々な情報が溢れています。私はこれにより、

  1. 新規の参入の確保

  2. 界隈全体の作品のクオリティー上昇

が起こっていると考えます。前者は音MAD動画の作り方が公表されることによって、絶えず新規参入が行われ、先駆者が引退したとしても人が絶え間なく入れ替わるというわけです。後者に関してもに関しても技術がオープンソース化されることにより急速にクオリティーが高まったのです。
この現象は音MAD界隈のみならず多くの界隈で確認できます。
例えば、3Dプリンターが典型例です。

詳しくは上記のリンクを参照してほしいのですが、3Dプリンターの技術特許が切れたことにより様々な企業が参入し価格の低下、技術革新が起こったのは有名な話です。音MAD界隈もこれと似たようなことが起こっているのではないかと考えます。
関連した話で言うとAviUtlもこれと似た現象が起きていると思います。AviUtlは個人でスクリプト開発が可能です。ダウンロードとインストールさえ済ませば無料で多彩な編集ができます。この無料というのがキーポイントで、もし音MADがAdobeのAEでしか作れなかったとしたらここまで新規の参入は起こらず、一時的なミームで終わったのではないかと思います。音MAD界隈がここまで発達したのも尽力したエンジニアの方々のおかげです。
技術革新だと音MAD作者自らがスクリプト開発をしているのも何度か見かけたことがあります。

まいまいさんのRPPtoEXOは本当に技術革命が起こったと感じました。何せ単なるスクリプトではなく自動化に取り組んだ初のスクリプトですから、そのうち映像まで全て機械が作ってしまう日も近いかもしれません。

補足

記事の中で合法音MADについて書きましたが私はあくまで法的に問題がない音MADを考察しただけであり全ての音MADがこのようになればいいと思っているわけではありません。
そもそも「ファンアートとしての音MAD」レベルで原作、原曲に対して愛があれば著作権問題にはならないような気もします。

5/8 追記 親告罪

著作権法違反の罪は告訴がなければ公訴を提起することができない犯罪、つまり親告罪に当たります。例えば、”アニメのキャラクターの画像をインターネット上のアイコンに設定する行為”は違法ですが、そのようなことでは(現実的に)逮捕されることはなかなかありません。これは先ほども述べたようにアイコンに設定した程度でいちいち告訴していてはアニメ運営側の時間がいくらあっても足りないためですが、実際に告訴したとなればアイコンにする人は減ると思います。音MADはこの”アニメのキャラクターの画像をインターネット上のアイコンに設定する行為”の延長だと私は考えています。つまり、実際に告訴されたのを観測してから動画の削除を行っても遅くはないのではないか、という提案です。

私の思想(兼自分語り)

私は音MADが大好きで、私の人生は音MADによって出来ていると言っても過言ではないです。音MADが人間に与えた影響は計り知れません。実際、それが良いものか悪いものだったかはさておき、私が音MADからは多大な影響を受けています。その例を挙げると、幼少期に見ていたミームがここまで人生を変えるとは思っていませんでしたし、今まで何度もRED ZONEのメロディーに頭を振ったか分かりません。Big BRotherを見た時は衝撃が走りました。音MDMのグッズを買いに夏コミにも行きましたし、月夜、路上の灯の作品を見た時はスロウスタートの一ファンとして涙を流しました。私は音MADはただのミームではなく新たな分野として確立できると信じています。だからこそ私は音MAD界隈を発展させていきたいと考えています。その上では間違いなく誰かが法的な問題に触れなければならないと思っています。なのでこの記事を書いた次第です。もしかしたらこの記事を読んでいる方は屁理屈と思っているかもしれません。正直、合法音MADに判決が下されるまではこの記事の信憑性は皆無です。それでも私は音MADが大好きです。
お読みいただきありがとうございました。

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