ブルーピリオド15巻の感想~死について考える~
八雲、はっちゃん、モモちゃんが、そして八虎が、真田の死についてどう向き合っていくかのお話。
八雲たちは生きている真田を知っている当事者だけれど、八虎は当事者じゃない(世田介君は「部外者」と表現してる)。ここの対比はすごく心に刺さるものがあった。
63話、八虎の回想で(モモちゃんに)「『殺されたって思いこみたいってどういうこと?』なんてさすがに聞けなかった」っていうところに、最初戸惑った。八虎が「どういうこと?」って聞きたい気持ちが全然わからなかったけど、直後に、八虎は罪悪感をテーマにAOJへ作品を出そうと決めてるってことがわかって、すっきりした。八虎は罪悪感について深堀りしたかったのかなと。でも、八虎は当事者ではないから、それを作品にできなかった(勇気がなかった?)。八虎が世田介君にそれを相談すると、「当事者じゃないと描けないことはあると思うけど、当事者だからこそ”自分は平気だった”って軽んじることもできる」と言われる。この言葉をきっかけに、八虎は八雲たちのことを作品にして、見事AOJ入賞を果たすことになる。
八虎が当事者ではないことを自覚したうえで死に向き合ったのに対して、八雲たちはそれぞれ、当事者として向き合う。特に、何といっても八雲。はっちゃんとモモちゃんは、真田の死をある程度乗り越えていて、八雲だけがずっと囚われていた。真田の個展が開かれることになって、八雲はモモちゃんのお父さんに「立ち直ることは悪いことじゃないよ」と説得され、個展に行って、帰ってきて、立ち直りかける。すごく明るく真田の話題を八虎と話したり。そこで、はっちゃんが、「よかった…八雲が立ち直れそうで」ってこぼす。それに対して、世田介君が「なんで立ち直らなくちゃいけないの」って、誰に言うでもなく返答する。「村井さん(八雲)は、その悲しみを一生背負って生きてもいいんじゃないの」。八雲は、「この悲しみって一生背負ってもいいんだ」、「幽霊でもいいから会いたかったな」、「でも、ちゃんと呪われてるじゃん俺」、「よかった…」。世田介君は「俺は部外者だから」八雲のことをわかってあげられたことを、はっちゃんに話す―「相手の立場にたったからこそ、言えなかったことがあったんじゃないの」。
以上、特に本書で考えさせられたところです。
ほんとに、山口つばさ先生は色々なことを考えさせてくれる素晴らしい作品を生み出しますね!一度でいいからお話してみたい。。。
あと、終わってみれば世田介くんが大活躍した話でしたね。八虎と八雲、はっちゃんまでも救ってる。
こっからが感想。
当事者でないからこそ見えるものがあるっていう考え方。ここは正直、私自身が持ったことがない視点でした。私だけじゃなく、世間的にも近頃は当事者であるかどうかが重要になっていると思うし、ハラスメントなんかは代表的なものだし、当事者の感情は十分に配慮されてしかるべきものだと思う。ただし、それは聖域(当事者でないと触れられない領域)ではなくて、世田介君の言うように、部外者は部外者であることを自覚したうえで何かしらの行動を起こすことも悪いことではないのかもしれない。
それと、「一生背負っててもいい悲しみ」とか、「立ち直らなくていい」っていう考え方。本当にすごいと思う。普通は、近しい人の死を「受け入れる=乗り越える=立ち直る」って考えるんじゃないかと思うし、少なくとも私はそう思っていた。でも、そうじゃない受け入れ方があるんだなって気づかされた。
少しだけ自分語りになって恐縮だが、先日父が急死した。私は身近な人の死に直面したのは初めてだった。父が亡くなってから、死について嫌でも考えていた最中に、山口つばさ先生が本当に色々な死に対する考え方を描いてくれて、今これを読めて、本当に良かった。もし父が亡くなる前にこれを読んでいたら、全然違った感想になっただろうし、なんなら面白いとすら感じなかったかもしれない。それくらい、現実に死と直面した人の根幹にある感情まで描かれていると感じた。
今回の話は、最近私が体験したことに直結していて、今抱えている悩みにも直結していて。私の妹は父の死を未だに乗り越えられていないように私の目からは見えるし、立ち直るなんてことは絶対にできていない。その一方で、私はある程度立ち直れていると自分自身思っている。それで、妹にも早く立ち直ってほしいと思っていたけれど、今回死についての考え方に色々あることを知って、立ち直ることだけが死を受け入れることではないことを知って、少し考え方の幅ができたような気がする。
まとまらない内容になってしまったけれど、身近な人の死に直面した側の読み手として、本書に触れられたことは本当に良かった。そういう経験がない人に、本書はどう映るんだろうか。八虎の視点に立つことになるのだろうか。そのあたりのことは友人などに聞いてみたいと思う。
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