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あっちけい、わが悔いなき生涯を綴る。④和食料理人編(後編)

連載(第四回です)
興味があれば読んでみてください。

第三回 あっちけい、わが悔いなき生涯を綴る。③和食料理人編(前編)


若人は料理人の修行を続ける

1. 若人は料理人として自覚をもった。23歳。

「魚の王に俺はなる!」

新たな修行先は神奈川県川崎の海鮮メインの料理屋さん。
実は同じ会社の系列店なので、オヤッサンとの今生の別れ的なヤツが、ちょっと恥ずかしい。

現状報告も兼ねて、月に2、3回はオヤッサンと飲んでたよ。

新しいお店には、喧嘩して辞めた最初の店と同じくらいの板前がいたが、今度は下っ端じゃない。

上から3番目の脇板として配属された。

焼き物、揚げ物の技術が評価されてたので、後輩に教える立場にもなった。
やったぜ。

とにかく徹底的に魚を触ったよ。
刺身用の魚はもちろん、焼き物用、揚げ物用も触りまくった。

この店は規模が大きい店で、毎日大量の魚を捌くことができた。

水洗いと呼ばれる下処理から始まり、刺身にできるよう魚を柵取りしたり、マグロのコロ(ブロック)を柵取りしたり。

航空便で届く魚の中には、見たこともないような魚もいた。

毎日が魚、魚、魚。

でも穴子が泳いでいる生簀に、1匹だけウツボを入れるのは辞めてほしかった。
「タカアシガニ」の一件を思い出したよ。

関西仕様の裂き包丁と目打ちを買って、うなぎの捌き方も学んだ。
うなぎを捌く日は、賄いでうな丼が食べられるのがうれしかった。

2. 若人はついに刺身を引けるようになった。25歳。


2年も修行していると、実際に刺身を引くようにもなる。

平造りにそぎ造り、薄造りに八重造り、松皮造り。
材料によって様々な引き方がある。

特にスジが多いマグロは注意が必要。
できるだけスジが残らないように、スジの流れを見ながら引いていく。

懇意にしていた包丁屋さんで、新しい柳刃包丁を作った。
俺的に最高級の柳刃包丁だ。

1尺1寸、本焼きの青紙二枚、黒檀柄。
値段は高すぎてナイショだ。6桁はいくシロモノ。

また、この頃からお花を習い始めた。
流派は華道家元池坊

費用は会社負担で、毎週先生がお店に来て教えてくれた。
これは、今後の料理の盛り付けに絶大な効果があったね。
華道のセンスってすごいよ。和の全てが詰まってる。

立板の先輩が、親方になる勉強を始めたらしく、外出がちになった。
おかげで脇板ながら、俺が立板として板場に立つことが多くなった。
えっへん。

立板は楽しい。
何が楽しいって盛り付けが楽しいんだ。
お花で習った「真 副 体」で盛り付けると、本当にきれいに盛り付けることができる。
そこに様々な食材を細工した「妻」を飾り付ける。

初めて修行したお店で喧嘩の原因になった「かぼちゃに施した、菊の花の彫刻」も盛り付けの器として活躍した。
もう最高。

3. 若人は渡り職人になった。27歳。

海鮮料理屋を3年務めた後は、季節の料理を学ぶために、いくつかの店を渡り歩いた。

オヤッサンの店はどうしたんだって?
そんなのまだまだ先の話。
いろんなお店の料理を勉強したい。

通勤するのが面倒になったので、家の近くの居酒屋に勤めたこともあった。

居酒屋は居酒屋で楽しい。
オヤッサンの店で1,500円で売っていた天ぷらを、680円で出したりもした。
得意満面な顔をしてね。

地元で働いていると、中学や高校の同級生や、親戚も食べにきてくれた。
みんなが「美味しい美味しい」と言ってくれると俺も幸せだった。

修行はきつかったけど、頑張った結果が出たんだなと嬉しかった。
社会に認められた気がしたよ。

4. 若人は頑張れば全てが報われるわけじゃないことを知った。28歳。

神様はいるのかって?いねえよそんなもん

地元で働いていると、休みの日に友達と遊ぶことも多かった。
みんな働き始めていたので、車を買った友達もいたんだよね。

俺は免許を取りに行く時間がなかったので、バイクの免許しか持っていない。

友達の車で神戸に日帰り旅行したり、福島に行ったり本当に楽しかった。

そうそう。
この頃、アメリカングラフィティって映画にハマって「オールディーズ」を聞くことが多かったんだよね。
ビーチボーイズやエルビスプレスリーなんかも、よく聞いてたなあ。

そんなある夜の出来事。

友達三人でドライブしていた時のこと。

調子に乗ってスピードを出していた友達が、緩やかなカーブを曲がりきれず、スピンして、100km/h近くのスピードで電柱に激突した。

乗っていた車は、衝撃でボンネットから先が「く」の字に折れた。

助手席の友達は亡くなり、運転していた友達は半身不随になった。

俺は



頚椎を強打して、両腕がほとんど動かなくなったんだ。

この日をもって、俺の板前としての人生は終了した。

続く

車載ガジェット&雑記ブログ「とりあえず使ってみた」

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